第25話「最強の剣士」


優から放たれる圧倒的な程の覇気に、戒は微塵も動けず、目をこれでもかと言う程大きく開いて、愕然とした表情を見せていた。

その目を、緑に輝く夜那と空界へと向け言う。


「優……その能力……アイツと……」


「ゔぅぅあああああああ!!!」


大剣使いは、優の能力に怖気付きながらも、2本の大剣を豪快に振るう。


「はぁぁぁああ!!」


戒の言葉を聴かず、次々と迫る大剣使いの攻撃を全て受け流す優。それどころか、大剣使いを圧し、どんどん戒から遠去かる2人。


優の2つ目の能力は強化。あらゆる概念の等級を1段階、2段階、それ以上に強化する能力。

その中でも優は武具の強化に長けており、先程まで受け切れなかった大剣使いの攻撃を、今では完全に制覇しするまでの力を誇っている。

一瞬にして戦況は一変。

優が優勢となり、大剣使いは防御に転じていた。優が一歩攻める度、大剣使いは一歩足を引く。理性を失った大剣使いですら、表情を濁していく。

防ぎきれなかった優の攻撃が、次々と大剣使いの肉を抉る。緑色の草原を、溢れ出た血液が飛び散り、赤く染める。


そう、大剣使いが死ぬまで動き続けるならば、死ぬまで攻撃し続ければいい。今の優ならば、それができる。


生き残った他のメンバーや戒が、優……蒼黒の力に立ち尽くし唖然とする中、彩乃は、落ち着いて、優を見つめていた。


そんな彼らを背に、優は大剣使いを押し切っていく。



次々と繰り出される優の攻撃を逃れまいと、大剣使いは地を蹴り、距離を取る。

一瞬にして間を詰めた優に右の大剣を薙ぎ払う。

それを、表情を崩さず空界のみで優は防ぐ。


「シネェェッ!!!」


だが、大剣使いは更に、左の大剣を上段に薙ぎ払った。優の逃げ道をなくし、両手の大剣で挟み切り首を跳ねる為だ。


「っ!!」


素早く反応した優は、その場から左へ向かって飛び、上下で重なった右と左の大剣の狭間を身体を反って潜り抜ける。

着地して、大剣使いに強く蹴りを入れた。


「ぐるぁぁっ!?」


あの大剣使いが吹き飛んだ。

反動で左手の大剣が回転しながら空高く舞う。


「っ!!」


走って大剣使いを追い詰める優。

身体のバランスを崩しながらもなんとか右手に重く握られた大剣を優に振る。

透き通った赤眼を尖らせ、優は叫ぶ。


「はぁぁぁあああああああああ!!!」



空界の緑の光が消え、夜那の光がより一層強くなる。強化能力を一点に集中させたのだ。


土を抉るほど強く足をつき、夜那が握られた左手で大きく斬りかかる。そして遂に振りかざされた大剣を真っ二つに斬り落とした。


「!?」



「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


彩乃の声が皆の耳へ、優に響く。


「俺がっ!!戒を!色季さんを!みんなを!守るんだぁぁぁぁぁああっ!!!」


そう言い放ち、優は夜那を投げ捨てて、両手で舞友実から託された空界を強く握り、そのまま大剣使いへと突き刺した。



激しい血しぶきと呻きをあげる大剣使いと共に、優は地面に倒れた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


刺さった空界に両腕を預け、俯いた顔を大剣使いへと向ける。

もう限界のようか、能力を使用しても動けないようだ。気を失っている。


やはり、殺せなかった。



だが、優にも最早力は残されておらずそこからヨロヨロ後退りした後、同じように倒れ伏してしまった。

そこへ、僅かながらも体力が回復した彩乃と戒が駆けつける。


「優さん……」

「優……お前、ハハッ、めっちゃ強えじゃねぇかよ」


その2人へ笑顔を向け、優も気を失った。

彩乃と舞友実のおかげで一命を取り留めたとは言え、あれ程の能力を使ったのだ。流石の優も保たない。


「あいっ、いたたたたた……って痛い!いった!!」


その時。

優の傍らの戒と彩乃の耳へ、掠れた男の声が届く。

2人はその声に反応し、即座に振り返る。

そこには、死んだかと思われていた相原が身を起こしていた。腹部から溢れる血を抑えながら、自らの生存に浸っている。


「あ、相原さん!」

「い、生きてたのか!?」


優を支える彩乃を手で制し、戒は相原に駆け寄る。

「おい、大丈夫か?」

「な、なんとか……一応俺の能力。自己修復なんで……」

「そ、そっか、良かった。とりあえず安静にしてろよ、な?」


戒にありがとうと告げ、相原は彩乃に笑みを送る。

彩乃も崩れた泣き顔のまま、にっこりと笑った。

「良かったです……相原さん……助けていただいて……ありがとうございました……」


2人の目配せを見届けた戒は、倒れた大剣使いを横目に、口を開いた。


「ハァ……とりあえず、勝ったんだよ……な」

「……はい……でもまだ」



と、彩乃が言いかけたその時。


グシャッ!!グシャ……グシャ……


肉を抉る音が聴こえた。

咄嗟に音のした方へ振り返る2人の目に映ったもの、それは……


「おいおい……ちゃんと殺せよ」


殺意を露わにした他のメンバーたちだった。

大剣使いの心臓部に、何度も、何度も何度も何度も自分の剣を刺している。


「お……おい、もうやめ」


戒がそう零したその刹那、それを横目に見るものはこう言った。


「蒼黒。まさか1人でこいつ殺しちまうなんてな……今、殺しておいた方が良さそうだ」

「そうだな、ちょうど今オネンネ中みたいだしな」


と、次々と武器を装備し出すメンバー。

戒は、優と彩乃を守るように前に出る。


「お前ら……コイツがいなかったら、俺たち今頃死んでんだぞ?!」



「だから?大剣使いを殺した時点でこのチームは解散だろ?つまり俺らは敵同士。殺しちゃいけない義務がどこにあるん?」



「ふ、ふざけんなよ……ふざけんな!!」


メンバーの1人の男に攻撃を仕掛けた戒だったが、もう体力が残っておらず、呆気なく蹴り落とされてしまった。


「か、戒さん!!」


戒を助けるべく立ち上がる彩乃。と言っても、今の彩乃には戦うどころか、ろくに立つ力も残されていない。

戒は叫ぶ。


「優から離れるな!」



「ハハッ、ならまずお前から殺してやるよ。お前も中々強かったしな」


そう言って、男は逆手に持った剣を振りかぶる。そして狂気の笑い声を上げた。


「死ねぇぇ?!」


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


そう彩乃が叫んだ、その瞬間。


ブフォァァァァァアアアアアア!!!



真っ赤な炎がその男を直撃した。


「ぐっ!?な、なんだっ!!」


纏わり付く火を払いながら身を引く男。他のメンバーもそれに継ぐ。


そして、新たに炎の壁が、倒れた戒の目の前に現れる。他メンバーの侵入を防いだ。


「くっ、くそ!!赤のレイン!どういうつもりだ!」

「ぐっ、熱いっ」


呆然とする彩乃と戒の前に、本作戦のリーダー、赤のレインが歩みを寄せた。

レインは炎の壁の向こうに見えるメンバーたちにこう告げる。

「今日が終わるまで敵対はなしって言ったろ〜??」



「ハァッ!?んなもん聴いてねぇよ!おい!この炎どけろ!」

「お、おい待て、レインと殺り合うのはヤバイって!」

「はぁ??これを逃したら蒼黒の野郎がっ!」


炎の向こうで言い争うメンバーたちに背を向け、その余裕の表情を彩乃へ、優へと振り返るレイン。


「大丈夫〜?よくやってくれたよ〜俺はぁ、その、逃げられちゃったっていうか逃げてきたんだけど……」


「どうして……」


レインに問う彩乃。

どうやら、レインは軍服の覇剣を仕留めることは叶わなかったようだ。


「ま、なんとなく、かな」


レインは変わらぬ顔で彩乃を見ていた。

そして優へと目線を合わせた、その時。


余裕の表情が崩れた。

背後で燃え上がる炎が、レインの赤い髪を、一層赤く照らしていた。


「ゆ、優……?優、だよな?生きて、たの……か?」


薄っすらと目を開く優。必然と、レインと目が合った。


「…………え」


ーENDー

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