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 車がどんどん山道を登っていくごとに道は狭くなった。一方通行で、帰りは別ルートがあるようだ。山に入ってからずっと同じだと感じていた景色も木の形が変わったり、途中で川が見えたりと徐々に変化してきた。山の頂上に近づいたからだろう。


 平地から眺めていれば、その山全体の美しさが分かる。山を登っている本人はそれが分からない。香織は人生も同じだろうかと思った。自分の人生が美しくあってほしいと思う。しかし、自分では、自分の登っている山の形が分からない。誰かに眺めてもらわないと分からない。


「すみません、寝てたっス」賢治が体をびくつかせて起きた。

「かおりんがつまんなそうだったよ」

「え、申し訳ないです。何でですか?」

「そりゃお前が話してくれないからだろうよ」佐久間が意地悪そうに言った。


 香織には賢治の表情が一瞬だけ曇ったように見えた。


「龍一さん、あんまりからかわないで下さいよ」

「恥ずかしいのかい」

「まあ、そうっス」賢治は俯いて言った。。

「聞こえてますよー」香織はどう反応してよいかわからないまま、取り繕うように言った。



 スカイラインは展望台に続いていたので、駐車場に車を止めた。そこから展望台までは十メートル程度距離があった。

 全員でそこまで歩いて展望台についた。夜景がかすかに見えているが、霧が濃かった。「星を見に行こう」という提案の特別感に心を躍らせていたが、着いた先にあったものはまだ夏の夜特有の湿気を含んでひたすたに膨張していく粘性の闇だった。


「流星、見えないな。ここからは自由行動。私は車中で寝るから、好きに遊べ!以上」

「師匠、自分で言っておいてそれはちょっと…」

「星が見えたら、起こして」


 鰤谷はそれだけ言うと、駐車場まで引き返した。仕方なく、展望台に残ってしばらく様子を見ることにした。


「ケンちゃん、チャンスじゃない!」美沙は全員に聞こえる声で叫んだ。

「何がっスか!」賢治は慌てた様子で美沙を見た。その後、香織の方を気にするそぶりを見せた。

「かおりんとケンちゃんペア、佐久間君と私のペアで行動。午前三時にまたここに集合すること。決定」

「午前三時ね。了解です」香織は時計を見やって言った。集合まで三十分しかなかった。

「行きましょうか」賢治が緊張した様子で言った。

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