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 車は県境の山中をひたすら走っていた。時刻は午前一時を過ぎて、佐久間の家を出て三時間ほどが経っていた。香織は眠気を感じていたが、他のメンバーは外を見て歓声を上げたりしている。


「スカイラインがあるって知らなかったな」鰤谷は感心したように言った。

「そうっスね、観光客が通るって言うのを想定していたみたいです。地元の人が通る必要はないっスからね」

「賢治君、地理とか詳しいね。地図とかも読めるの?すごい!」美沙は手を叩きながら言った。

「サークルのバーベキュー、山形に行ってやりましたからね」照れたように賢治が呟いた。 

「夏の夜、山道、ドライブ、怪談には最適ですね。師匠」香織は木々の間の暗黒を見つめて、感じた通りに言った。

「そういうものなの?よくわからないけど」鰤谷は視線を助手席に一瞬向けて尋ねた。

「そういう怪談チックなシチュエーションってことじゃないですか」佐久間がフォローを入れる。

「白い服を着た女の人とかがいるんスよね」

「私、昔、夜道で幽霊と間違われたよ」鰤谷が言った。

 車中が笑いに包まれた。


 なんだか、大学に入ってからは、こうした自然な笑い方ができなくなってきた気がする。香織が大学に行かなくなった理由がそこにあるかもしれない。高校の頃の友達なら付き合いがある程度、密になる。それに比べて大学の友達は上辺だけの友達、つまり知人レベルのように思えてしまう。


 付き合いのレベルなど考えていなかった香織にとってその違和感がなんとなく嫌だった。そして、なんとなく嫌なだけで大学に行きたくなくなるほど大学に執着がないのだと思った。一言で言うと『つまらない』になってしまうことが大学に行かない理由を他人に説明するときにごまかす原因だったと香織は思った。



「風が気持ちいいよ」香織の後ろで窓を開けた美沙が呟く。

「本当だね」佐久間が言った。

「夜は薄着じゃ寒かったかな」鰤谷は自分の格好を気にしていた。

「風邪引かないで下さいよ、師匠」

「賢治が寝てる」佐久間が言った。

「本当に?やっぱり弱いんだね、賢治君」

 さっきまで冗談を交わしながらうるさかった後部座席が静かなのはそのせいだった。

「香織と同じペースで飲んだからだろ」

「かおりん、ペース速いもんね」美沙はグラスを一気に飲み干すジェスチャーをしながら言った。

「強いのが好きだしな」佐久間も同じようなジェスチャーで返す。

「別に私のペースに合わせる必要はないのに」

「そういうちょっとした言葉にトゲがあるからな。お前は」

「ただの感想だよ」

「ケンちゃんは本当にかおりん狙いなの?」

「それはもう。でも、香織は適当に流してばっかだから」

「だから、私が合わせる理由がないの」香織は小声で呟いた。

「んー」

 賢治があくびをしたが、起きる気配はなかった。車内は静かになった。


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