2#風船ヤギ

 ぽーん、ぽーん、ぽーん、ぽーん、ぽーん、



 めぇ~~~~~!!


 めぇ~~~~~!!


 めぇ~~~~~!!


 めぇ~~~~~!!



 「どうしたの?この風船。」


 黒ヤギのチョヨは、白いヤギ達が一緒に角や鼻で突いてオレンジ色の風船で遊んでいるのを、物欲しげに鼻の孔を孕ませてやって来た。


 「チョヨさん。この風船欲しい?

 チョヨさんは、餌とか餌とか餌とか欲しくて興奮してる時、何時も小鼻が膨らむね。

 もしかしたらこの風船欲しいの?」


 黒ヤギのチョヨは、ヤギのカエデの問いにうんうんうんうん!と何度もお辞儀をした。


 「じゃあ、この風船を私達に取れたらあげるよ?

 はな、めえた、めい、それどう?」


 「いいぞぉ?」「おいらについていけるかな?」「ふわふわふーせんあげないもんねー!!」


 他の3匹の白いヤギ達は、蹄をざっざっ!と地面を掻いてやる気まんまんだ。


 「じゃあ、いくど~!!めぇー!!」



 ぽーーーーん。



 ヤギのカエデは、垂直に跳ねて鼻面で思いっきり風船を突いた。


 「うわーーー!!空高く舞い上がってるー!!

 こんなの取れないよおーー!!」


 黒ヤギのチョヨは、首筋が痛くなる位に空を見上げて叫んだ。


 「ばーか!!君だって『ヤギ』だろ?『ヤギ』がコンナに瞬発力無くて、『ヤギ』じゃねーぜ?!」


 ・・・何言ってるんだか・・・


 黒ヤギのチョヨがそう思ってる隙に、ヤギ達がぽーーーーん!!ぽーーーーん!!ぽーーーーん!!ぽーーーーん!!と、高くジャンプしては鼻や角で風船を突きあげた。


 ぽーーーーん!!


 ぽーーーーん!!


 ぽーーーーん!!


 ぽーーーーん!!



 「何とか!!何とか!!何とか!!何とか!!風船を採りたいぃぃーーー!!」


 負けずぎらいの黒ヤギのチョヨは、ヤギ達から次々と遥か上空から風船がフワフワと堕ちては、高くジャンプしてヘディングするヤギ達から風船を奪い取る為に、何度も何度も何度も何度もブロックしようも巧みに交わされ仕舞いには、体当たりされて地面にバウンドして転がった。


 「痛いなぁ!!」


 「邪魔だよ!!チョヨ!!」


 他のヤギ達は、黒ヤギのチョヨには目をくれずに夢中になって高く風船を突いていた。


 「んもう、」




 ふうわり・・・



 「あれ?」


 黒ヤギのチョヨが見上げた先に今、ヤギ達が遊んでいる風船とは別に緑色の風船がゆっくりと、チョヨに向かって降りてくるのを見た。


 「オーライ、オーライ、オーライ、ほっ!と。」



 ぽーーーーん!



 やっと、黒ヤギのチョヨの鼻面に風船が触れた。


 ・・・一瞬、鼻の中に伝わる香ばしいゴムの匂い・・・


 ・・・初めて私は風船に触れた・・・


 ・・・あれ・・・?



 ふうわり・・・


 ふうわり・・・



 黒ヤギのチョヨが鼻で触れた風船は、そのまま上空へフワフワと舞い上がり、やがて雲間へ吸い込まれるように飛んでいってしまった。


 「チョヨちゃんの力すげー!!こーんなに高くヘディング出来るんだぁーーー!!」


 今さっき、から立ち直ったヒツジのアンが空へ見上げて驚いた。


 「あーーーっはっはははははは!!」


 ヤギ達は、腹を抱えて爆笑した。


 「な、何がおかしいのよ?!お前たち。」


 黒ヤギのチョヨは癪に触って膨れた。


 「だって!!あの風船・・・ヘリウムガスで膨らんだ風船だよ?!」


 「へ、ヘリウムガス?!」


 「え?知らないの?風船の常識だよ?!

 ヘリウムガスはねえ、俺らの吐息より遥かにかるーい空気だよ?!

 ヘリウムガスで膨らませた風船は、宙に浮いて空に飛ぶんだよ?!」


 「そ、そうなの?!で、ど、どうやって?!」


 「あーっ!!黒ヤギ!!勝手に俺らの風船取るな!!」


 黒ヤギのチョヨは、転がっていた今さっきヤギ達が突いてた風船をこっそりと拾って結んだ吹き口をくわえてブンブン振り回した。


 「あっ。」


 「ああっ!!」



 ぷしゅーーーーーーーーーー!!ぶおおおおお~~~~~~~~!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!



 黒ヤギのくわえてブンブン振り回した反動で、風船の吹き口の結び目がほどけて、空気が抜けてみるみるうちに小さく萎んでしまった。


 「あーーーーーっ!!ごめんなさい!!風船縮んじゃった!!」


 「おい・・・黒ヤギ。」


 「俺たちの風船元に戻せよ。」


 「罰として、この風船を口で膨らませろよ。」


 怒ったヤギ達は、半べその黒ヤギのチョヨに向かって角を突きだして責め立てた。


 「ど、どうしよう・・・どうやって・・・?!」 




 ぱっかぱっかぱっかぱっかぱっかぱっかぱっか。



 そこへ、一匹のアルパカが通りかかった。


 「おや?ヤギさん達、激おこプンプン丸ですなあ。」


 アルパカのパルは、首を突きだして顔をくしゃくしゃにして泣いている黒ヤギのチョヨに顔をつきだした。


 「ははーん。この風船萎んじゃったんだね。

 よーし!おいらに任せろ!!

 おいらが一気に・・・口で」


 「アルパカさん。せっかくだけど、あたしが口で膨らますわ。私がやっちゃったんだし・・・」


 黒ヤギのチョヨは、うつむき加減で言った。


 「そっか。でも、大丈夫?」


 「あれ?どうやって風船膨らませ方解らないの。」


 ずこーーーーっ!!


 ヒツジのアンとアルパカのパルはズッコケた。


 「この風船の吹き口をくわえて、息を思いっきり吹き込めばいいのよ。」


 「解ったわ、ヒツジさん。ありがと。」


 黒ヤギのチョヨは深く息を吸い込むと、頬っぺたをめいいっぱい孕ませて、



 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!




 「がんばれっ!!」


 「がんばれっ!!」「がんばれっ!!」「がんばれっ!!」「がんばれっ!!」


 いつの間にか、ヤギ達も一生懸命息を入れ風船を膨らます黒ヤギのチョヨを応援していた。



 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!



 「がんばれっ!!」「がんばれっ!!」「がんばれっ!!」「がんばれっ!!」



 黒ヤギのチョヨが口で膨らませている風船はどんどんどんどん大きくなり、やがてネックの付根まで膨らんで洋梨のようにパンパンに膨らんでいった。


 「黒ヤギさん!もういいよ。膨らませ過ぎると大爆発しちゃうよ!」


 アルパカのパルは、蹄で耳を塞いで叫んだ。


 「だいばくはつ!?」


 黒ヤギのチョヨはギクッとした。


 しゅ~~~!!


 ビビった黒ヤギのチョヨの口元が緩んで、膨らませ過ぎた風船の空気が少し抜けた。


 「はい、黒ヤギさん!!ここで空気が抜けるの止めて。」「はっ!」


 黒ヤギのチョヨは、空気が抜けないように必死に地面に蹄で風船のネックを押さえて蹄で、風船の吹き口をきゅっと結わえた。


 「やったーーーー!!」


 「黒ヤギさん!!よく頑張ったね!!」


 ヤギ達が、一斉にぜえ・・・ぜえ・・・と息切れしてへたりこんだ黒ヤギのチョヨの元へ駆け寄ってきた。


 「私の吐息の入った風船。」


 黒ヤギのチョヨは、前肢の蹄で優しく持ち上げた風船の表面に映る自らの顔を、不思議そうに見詰めていた。


 ・・・私のこの鼻で息を吸って、吸った息を口から風船に・・・


 黒ヤギのチョヨはそう思うも興奮して、風船のように艶が光る鼻の孔をパンパンに孕ませた。


 「ねぇ、早速あんたが膨らませた風船で遊ぼう!!」


 ヤギ達や、ヒツジのアン、そしてアルパカのパルが期待でジャンプしながら言った。


 「うん!元は君達の風船だよね。遊ぼう!!今度はヘリウムの力じゃなくて、本気で高く突くよーーー!!そーれっ!!」



 ぽーーーーーん!!



 それからといもの、


 黒ヤギのチョヨ、


 ヤギのカエデとはなとめぇた、


 ヒツジのアン、


 そして、アルパカのパルは、一緒に風船突きを楽しんだ。



 ぽーーーーーん!!



 「ほっ!」



 ぽーーーーーん!!



 「よいしょっ!」



 ぽーーーーーん!!



 「あらよっ!」



 ぽーーーーーん!!



 アルパカのパルが突いた風船は、そのままフワフワと黒ヤギのチョヨの元へゆっくりと降りていった。



 ・・・愉しいな・・・


 ・・・風船ってコンナにとっても愉しいんだ・・・


 「オーライオーライほっ!」



 パァーーーーーン!!



 「ごめん、風船割っちゃった。」


 思わず角で風船を割ってしまった黒ヤギのチョヨは、周りの「あーあ・・・」のがっかりしたタメ息に黒い顔を青ざめて平謝りした。



 




 

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