第一章 ⅩⅩⅠ 瞳の中のシリウス

21 瞳の中のシリウス



 様々な感情が頭の中身を掻き回す中、俺はついにシェリアの部屋の前に辿り着いた。手汗が滲み、喉がカラカラに張り付く。おかしい。ついさっき、水分補給も済ませたハズなのに......


「あっ!リート来たっ!いらっしゃーい。入って、入って!」


 こちらがノックをする前に俺の気配を感じとったシェリアの明るい声が扉越しに聞こえて、がちゃり。


 こちらの心の準備などお構いなしにシェリアが扉を開けて、向日葵のような笑顔を咲かせる。


「よ、よう。待たせちまった......かな?」


「んーん。ぜんぜん!ワタシも胸がずっとドキドキしてたけど、これは気持ちのいいドキドキだったから。えへへ。ほらっ、リート、こっちこっち!」


 俺の手を取り、アンジェ姐さんセレクトの可愛らしいベッドへ俺を誘導するシェリア。その部屋の中に満ちたシェリアの髪の匂いと机やクローゼットから感じるこの二週間の暮らしの足跡が、これは現実の出来事なのだと、どこか夢見心地だった俺を現実に引き戻す。


「えへへ。リートも座って、ねっ?」

「お、おう。」


 ぎしり。シェリアと一緒に腰をベッドに下ろす。


「......あのね、リート。ワタシ、凄く嬉しかったんだよ?」


「......お嫁さんにしてやるってやつか?」


「それもそうなんだけど......その前に言ってくれたでしょ?ワタシのこと、大好きだって。リートがワタシのこと好きだって言ってくれたのは......えへへ。あれが初めてだったから。とってもとっても嬉しかったんだよ......」


 横に座るシェリアの顔がみるみる赤くなっていく。繋いだシェリアの手がきゅっと握り締められて、俺もそれに応えるように握り返す。


「あぁ。たぶん初めてお前に会った時からずっとお前に惹かれていたんだと思う。いきなり、素っ裸で俺の目の前に現れたっていうオマケ付きではあったけどな。」


「むー。じゃあ、ワタシが裸じゃなかったら、リートはワタシのこと好きになってくれなかったのかな?」


 頬をぷくりと膨らませながら、上目遣いの視線を寄越すシェリア。


「バカたれ、そんなわけないだろう。お前みたいな女の子と四六時中一緒にいたら、そりゃあ恋心の一つや二つ湧きますよ。」


「ホントにホント?」


「あぁ、ホントにホントだ。」


「なら......ね。しょーこを見せて?ねっ、リート......」


 シェリアがこちらに熱のこもった体を寄せる。顎をこちらにあげて、瞳を閉じて......綺麗なピンクの唇が......俺にシェリアへの想いを示して見せろと、近づいてくる。


 ......その形のいい唇に自身の唇をそっと重ねた。最初はただ優しく触れるだけのキス。


「んっ。」


 シェリアの身体がピクリと震える。繋いだ手の形を変えながらお互いの指を絡ませて、離れられないように。


「んっ、ふぅ。リート......。んむっ。」


 今度はシェリアが俺の唇をついばむように小刻みに動かし始めた。上唇も下唇も。一つ一つ、俺の口元の形を確かめていくような、そんなキス。


「ちゅっ。ちゅむ......はむ。......はぁ、んちゅっ。」


 何度目かの息継ぎの後、さらにこちらに身体を預けてくるシェリアの意図を汲んで、空いたもう片方の手もしっかりと指を絡める。


「えへへ、もっともっと。深いところまでつながろ?」


 そう語ったシェリアの瞳の熱の色に応えるように、今度はこちらから、やや強引に唇を塞ぎにかかる。


「あむっ、んふぅ。りぃ...とぉっ。んむる、......れぅ。」


 ......俺の舌を、シェリアの口内に押し入れる。昼間、シェリアがそうした様に、舌を歯を歯茎も粘膜も全て、俺の舌で舐め、擦り、絞って、口の中から蕩けさせる様に息をするのも忘れてひたすらシェリアを味わい尽くす。


「んむッ、れる......んんっ、ちゅぷ。ふゎ、ンッっ!ちゅっ、ちゅっ、れる、ちゅぷ。もっと......ちょうだい。リートの......しょーこ。ワタシのこと、大好きだって。んむっ。はむ。いっぱい...いっぱい......。」


 互いの口元から引かれた銀の糸を気にすることもなく、貪り合うように舌を絡ませ、動かし続ける。


 すでに俺自身の熱は最高潮まで達しており、ひたすら重苦しい甘美な痛みを俺に訴え続けていた。


「えへへ、やっぱりキスって凄いね。これだけで頭の中がふわふわして、何も考えられなくなっちゃう。でもね、これからもっともっととろとろにしてくれるんでしょ?リート......」


 その眼を蕩けさせながら一息着いたシェリアが俺の腰に手を回して、をと、要求してくる。その要求に応えるべく、シェリアの身体に正対して、


「触るぞ。痛かったらすぐに言ってくれ。」


「うん。リートにだったら......何をされても...だいじょうぶだから。」


 再びシェリアの唇を塞いでいく。


「んむぅっ、れる、れぅっ......ちゅっ、れろ......」


 その動きに合わせて俺の身体に押し付けられる二つの膨らみを服の上から優しく撫で上げる。


「ひゃぅっ!」


 休まず動かし続けていた口を止めたシェリアの身体がビクリと跳ねて、


「もっと......触って...リート。ワタシ、だいじょうぶ...だから......もっと強く、気持ちいい......から。」


 撫で上げるだけだった手の動きにやや力を込めて、その豊かな膨らみを持ち上げながら揉みほぐす。服の上からでもふにゅりと指が沈み込んで、その度にシェリアの口から断続的な喘ぎが漏れ聞こえだした。


「んッ、んっ、ンッ、んぅっ、はぁ...ンッ、もっとぉ...いいよ?リート......はげしく......して?」


 身体の体勢を維持するのが難しくなったのか、どさりとベッドに仰向けになるシェリア。その呼吸に合わせるように胸が大きく上下する。


「......わかった。俺もシェリアの身体を直で感じたい。服を脱いでもらっていいか?俺も脱ぐ...から。」


「......うん。なら......ワタシ、リートに脱がせてもらいたいよぅ。ほら......リート。......きて。」


 上半身を裸にした、俺を誘うようにシェリアが両手を拡げる。


「今、服の前を開けられるようにしたから......そのまま左右に開いて......ワタシのはだか......リートにだけ......見せてあげる。」


 シェリアの指示の通りに紅のワンピースを左右に開いていく。するすると音を立てて露になっていくシェリアの裸身。仰向けの体勢でも、しっかりとした張りのある乳房は重力に負けることなく上を向いていて、その桜色の頂はすでにこれでもかと張り詰めていた。


 そんな俺の視線を感じたのか、シェリアはやや身を捩らせながら、


「えへへ、やっぱりちょっとはずかしいよぅ。でも、ワタシももうがまん出来そうもないから......ねぇ、リート......お願い。もっととろとろのふわふわにさせて?」


 その仕草一つで全ての理性は彼方に飛んでいった。覆い被さるようにシェリアの唇に強引に舌を捩じ込む。


「んンッ!れるっ......ちゅむ、あむッ。れう、あっ、あっ、あっ、アッ...んアッ!!」


 シェリアの膨らみ両手でを揉みしだきながら、唇から徐々に舌を這わせていく。首筋、鎖骨、胸元。そして、その頂へ......。


「アッっ、あっ、あっん。くふっ、あっ、やだ......なんか、きちゃう...ぞわぞわのふわふわが......んぅっ!おなかから......のぼって...だめだめだめ...すごいのが......とろとろって......あアッ!」


 シェリアの両手が俺の頭を掴む。だが、もう止まれない。目前に迫った桜の突起を口に含み、舌で転がしながら深く吸い上げる。


「ああっ、もうダメだよぅ、リート!!ワタシ......アッ、くるっ、とろとろがッ......!ンンンっッッッッッ〰〰〰〰〰〰〰〰〰!!!!!!」


 俺の頭を胸元に全力で抱え込みながら、上半身を弓なりに反らせたシェリアの肢体が激しく痙攣を始める。


「あンッ、アッ、アッ、アッ!!やだ、これ......何回も!らめ......らめらめらめらめ!止まらないようッ!アんっ!あっあっアッあっ!アぁあああっーーーーーーーー!!!!!!」


 最後の快楽の渦が飛沫と共にシェリアの身体を包み押し流す。小刻みに何回か震えるシェリアの身体。


 そのうちその波が収まったのか、くたりと脱力し肩を上下させながらもシェリアは口を開いた。


「はぁはぁはぁ、えへへへへ。......凄かったよう。ふわふわのとろとろだった......ぜんぶぜんぶ、ぶわーって流されちゃいそうなおっきな波......」


「大丈夫か?シェリア。大分派手な感じになっちまったな...すまん。どっか身体に変なところはないか?」


「えへへ。大丈夫。まだ頭はふわふわするけど全然へーきだよ?」


 そう言って身体を起こしたシェリアはいつの間にか汗みずくになっていて、綺麗な赤髪が頬に張り付いた状態で満面の笑みを見せる。


「どうする、一回休憩するか?下に降りて水でも持ってくるか?」


「えへへへへ。うん。汗いっぱい掻いちゃったから、ちょっと喉が渇いちゃったかも。......んしょっ!......っと?あれれ?おかしいな?ねぇ......リート。足がガクガクして立ち上がれないよぅ。」


 未知の快感に腰が抜けてしまったのか、ベッドの上で動きを止めるシェリア。


「無理しなくても大丈夫だ。俺が水差しごと持ってきてやるから、ちょっと待ってろ。」


「えへへ。ありがと、リート。...やっぱりリートは優しいね。」

 ......その言葉を聞いた瞬間、俺の中の何かがひび割れる。


「......俺は...優しい人間なんかじゃねぇよ......」


「.........リート?」


 やめろ。何でこんな時におまえはそんなしょうも無いことを口にするんだ。


「なぁ、シェリア。俺は異世界ここに来て、お前と出逢って色んなものを見て、知って、笑って......そんでもって沢山とは言わないまでも、この手でいくつかの命を奪ってきちまったんだよ。俺自身、殺したくて殺した訳じゃない。それでも、俺のエゴで何体ものモンスターや化け物の命を.........」


 なんだ?どうしてだ?一度開いてしまった感情の蓋からとめどもなく溢れていく、悔恨の言葉。懺悔の言葉。


「......リート...」


「俺は......優しい...人間なんかじゃないんだよ......シェリア。どこにでもいる自分本位で身勝手な......ただの人間だ。」


 溢れてくるのは言葉だけではなかった。堰を切ったように流れ出す涙の洪水。ちゃんと自分では折り合いをつけていたハズなのに。......止めることが出来ない。知らず握っていた拳が震えて、それが全身にも広がっていく。自分でも制御が効かないこの感情のやりどころを求めて、シェリアに眼を向ける。


 その瞬間、


「だいじょうぶだよ......リート。ワタシがそばにいるよ?ずっとずっと、そばにいるから。」


 身動きがとれないはずのシェリアがその背に翼を広げ、俺の頭を優しく柔らかな胸元に抱き締める。


「リートが頑張ってきたのをワタシは誰よりも知ってるもん。リート自身がそれを認められなくても、ワタシがぜんぶぜんぶ包んであげる。......たぶんね、お嫁さんってそういうことなんだよ。」


 泣きじゃくる俺の頭を優しく撫でるシェリアの手。


「命が生きていくっていうのはとてもとても難しいことなんだ、ってメイちゃんはね、ワタシに教えてくれたの。みんなそれぞれ、なにかの命を奪って生きていかなきゃならないんだって。だから、みんな一生懸命生きていかなきゃならないんだって。」


「......だからみんな一人では生きられないんだって。メイちゃんは言ってたの。最初は難しくてよくわかんなかったけど、グリグランでみんなと一緒に暮らしていく内にね、あーこういうことなのかなーって、わかってきたの。だからね......」


 シェリアの手がぐしゃぐしゃになった俺の顔を拭っていく。涙も、鼻水も、俺自身がひた隠しにしていた後悔の色も。


「リートが苦しんでいるなら、その半分をワタシにも分けてほしいの。出逢った日に一緒に食べたポップコーンみたいに。二人で喜びも悲しみも半分こして。二人で仲良く手を繋いで、この先もずっとずっと。」


「だからね、泣きたいなら我慢しないでいいんだよ?ツラいなら弱音を吐いてくれていいんだよ?だってワタシはリートのお嫁さんになるんだから。」


 そう言って再び俺の頭を優しく撫でたシェリアの瞳には今まで見せたどの表情とも違った慈愛の光が灯っていた。


 そうだ、俺が拳を握る理由はそれだけで十分なんだ。コイツが隣で笑っていてくれるなら、それだけで十分なんだ。みっともなく頬を濡らしていた涙を俺の手で強引に拭いさって、真正面からシェリアの瞳を見つめる。


「シェリア......」


「なぁに、リート...?」


「......愛してる。」


 好きでも大好きでもない。愛してるという言葉。その重みを確かめてもう一度口に出してみる。


「シェリア、お前を愛してる。」


「うん。ワタシもリートのこと......愛してるよ。」


 そう言葉にして、翼を畳み俺の目の前に降り立つシェリア。


「わわっ!とっと。」


 踏ん張りが効かないのか、俺の身体にもたれてくるシェリアの身体を両手で支える。


「えへへ。ありがと、リート。ねぇ、この後......どうするの?」


 そうだ、俺のつまらん感傷のせいで台無しになりかけた初夜を建て直さなくてはならない。


「当然、続行だ。お互いどろどろになるまで、とろとろのふわふわを半分こにするんだろ?」


「そうだね、えへへ。それじゃあ、気を取り直して二回戦、始めちゃおうよ?ねぇ、リート......」


 その言葉を皮切りに互いの唇が触れ合い、重なる。身体も心も一つに溶け合わせるように続く長い長い口づけ。



 これから先の情事の行く末を知る者は彼ら二人と、窓から覗く二つの月だけだろう。この行動の結果が後にどういった結末を迎えるのかを知るのにはまだ少々の時間を必要とする......


 なーんちゃって!!まぁ、最初の二週間でここまでスムーズにいくなんて、やるじゃないかリート君!やっぱりワタシの見込んだ通りの少年だ!ここから先を覗こうなんてのは無粋にも程がある。


 レイズのおねーさんはずうっとキミ達を見守っているからね!安心して、キミ達の旅を続けてくれたまえ。キミ達の旅路に幸多からんことを......


『それでは改めて、快適な二度目の人生セカンド ライフを!リート・ウラシマ君!キミの英雄譚はまだまだワタシを楽しませてくれそうだ!もっともっと、キミの思うがままにその拳を振り続けるといい!』


 蒼白い炎を灯し続ける彼女は高らかに笑いながらその身体を果てのない暗闇に融かしていく。後に残されたディスプレイに映された二つの月はひたすらその場に淡い光を灯し続けていた。




     to be continued...

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