第6話 発症スパイラル


「インフルエンザはもう大丈夫なんですか?」



「・・・」




 インフルエ、ンザ、だと・・・



 そうか、どうもご本人が現れることなく、事がスムーズに進んでいっていると思いきや、本人が休んでいただけか。本来、今日来るはずのない人間が来てしまったのか。


 まぁ、インフルエンザで休んでいるなら休んでいればいいさ。乗っ取られるのはお前なのだから。




「まぁね、エリートのインフルエンザは長引かないんだ。」




 などとホラを吹く。自分で言っておいてアレだがなんだその言い訳。発言が全然エリートじゃねぇよこいつ。



 流石にひどい言い訳だなと後悔した。するとシズクが口を開く。




「へぇ〜、すごいんですね!昨日かかったばかりで、一晩で治っちゃうなんて!」




 微塵も疑う様子もなく、当たり前のようにこのバカげた話を信じてしまうシズクの将来に不安を覚えた。まぁ、彼女が信じてくれているのなら、こちらとしては一安心なのだが。 

 


 ていうか、松山さんインフル発症したの昨日かよ。てっきりインフルエンザかかったから、治ったとしても一週間くらいは出てこれない、みたいなかと思いきや、赴任前日に発症してたのかよコイツ。いくら頭が良くても、そんな体調管理ではエリートとは言いきれんな。





「はい、ここが4組です!」




 というわけで、4組に着いた。なんだか室内がざわざわしている。ザ・高校って感じでなかなか好きよ。いいか、とにかくエリート感出せよ松山。エリートや俺は俺はエリート。




「みんなー、新しい担任の先生連れてきたよー!」




 教室に入り、保健委員長のくせにクラス会長みたいな振る舞いをするシズクに、一種の萌えを感じるのは疲れているからだろうか。

 


 ミツルが教室に入ると、ざわざわしていた生徒達が一斉にミツルの方に視線を向ける。なんだか、「あれ、なんでコイツ来たの?」と言わんばかりの目をしている。




「・・・おい、赴任の松山先生ってたしかインフルエンザじゃなかったっけ・・・?」


「だよねー、昨日発症したのにもう治ったってことかな?」


「まぁエリートだから一日で治ってもおかしくもないかもね。」


「たしかにねーウケる。」




 なんか、こちらからアプローチすることなく勝手に納得してしまったようだが、ひとつ分かったことがある。




 ―――コイツらバカだ。




 よし、このバカどもなら上手くごまかせるかもしれん。俄然自信がついた。大船に乗ったつもりでいこう。マグロ船や。マグロ船や俺は俺はマグロ船。



 しかし、一難去ってまた一難とはよく言ったもので、次なる壁が立ちはだかる。




「じゃあ松山先生、新しい担任として自己紹介お願いします!」




 シズクからの自己紹介のフリ。それは恐ろしいほどの鬼門だった。なぜならば・・・




 松山先生の下の名前がわからない。

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