第5話 罪を重ねる覚悟

 ありがたいことに、俺は「松山先生」と間違われるほどの何かがあるようだ。容姿が似ているとか。それを利用して、とりあえず今は「松山先生」とやらになりきる必要がある。松山先生の情報としては、村雨学院高校に赴任するエリート、ということくらいしかわからない。しかしやるしかない。ここで逃げてしまえば怪しまれるし、最悪の場合逮捕されるかもしれない・・・

 

 複数の空き巣・人殺し・なりすまし、これらの罪が世に知れることとなれば、一体どれほど重い罪に問われるのだろう。




「それじゃあ松山先生、そろそろホームルーム始まっちゃいますから、行きましょうか。」




 シズクがミツルの手を引く。ホームルーム・・・。なんだろう、とても嫌な予感がする。




「えっ、ああ、そうだな。それでは瑠美先生、ごきげんよう。」




 エリートっぽく喋ってみたが、違和感が否めない。




「そうね、ごきげんよう松山先生。赴任してきたばかりで不安でしょうけど、わからないことがあれば保健室に来てくださいねぇ?」




 赴任してきたばかり、というのはなかなかいい状況だ。わからないことがあっても、「赴任してきたばかり」を利用して誤魔化せばいいのだから。

 




 しかし、このシズク。先ほどホームルームが始まると言ったな。まさか松山先生は、「クラスの担任」なのか・・・?いやいや、それはない。いま5月だぞ?新学期始まって一ヵ月余りだというのに、もう担任が変わるなんて聞いたことねぇぞ。どんだけ情緒不安定な高校なんだよ。やめてくれよ担任なんて!

 


 担任とはすなわち、一つのクラスの統治者リーダーである。ということは必然的に、クラスの管理をし、色々な業務をこなし、骨が折れるまで労働しなければならない悪夢のようなジョブ。そして、いじめとか起きたらちゃんと処理しないといけないし、もし気づかなかったら文句言われるし。もうなにが楽しくてクラスの担任なんて・・・




「・・・せい、松山先生!ほら、ボサっとしてないで行きますよ!」




 いろいろ考えているうちに、いつの間にか廊下に出ていた。まだシズクが手を引っ張っている。

・・・まことに悪くない。




「金森君は、2年何組なんだい?」



「シズクでいいです。私は4組ですよ。」



「あぁ、そうか。」



「で、俺は君たちの担任を?」




 危ない賭けだが聞いてみた。




「えっ、何言ってるんですか?だから連れてきているんじゃないですか。」




 嫌な予感は的中した。そうか、松山先生は村雨学院高校の2年4組の担任として赴任してきたのか。厄介だな。まぁいいだろう。俺は松山、俺は松山先生だ、自信を持て、がんばれ松山!



 ミツルはかつてないほどのやる気に満ちていた。なにより罪状が「なりすまし」だからな。生半可な気持ちでやってたら死んでしまう。無免許ノーライセンスで教卓に立つのだから、バレたら人生終わるだろうし。とりあえず矛盾のない言動を心掛けなければ。



 しかし、ミツルは次のシズクの言葉に青ざめることになる。




「ところで先生、インフルエンザはもう大丈夫なんですか?」

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