冬の風

「さむい」

『さむいですね』

「さむい」

『うん、さむいです』

「どうにかして」

『どうにかと言われても』

「とりあえず、あんたを包んでるその微風を止めてよ。

それだけで体感温度が五度は上がると思うから」

『それは出来ないです。最低でもこれくらい風を吹かしておかないと

おれが風であることが伝わらないじゃないですか』

「漫画ならともかくね、これは小説なの。文章なの。

あんたの周りに吹いている風なんて、誰も見てくれないのよ」

『本当ですか』

「うん」

『おれの風……』

「見えていないの、読者さんたちには」

『君にもですか?』

「私には見えてるよ。あんたの隣にいるんだから」

『おれ、君の隣にいる? 絵じゃないのに、君にはわかるんですか?』

「いるじゃない、こうして」

『よかった、君には見えているんですね。

じゃあ、おれ、ずっと傍にいていいですか? 君の』

「そんなこと言って、去年、冬が終わったら私の前から姿を消したじゃない」

『……』

「今年もそうやって、私の前からいなくなるんでしょう」

『……ごめん』

「……」

『ごめん』

「別に、いいよ。

ただ、今年もいなくなるなら、

来年の冬も必ず私のところに来てくれるって約束して」

『はい、もちろん』

「絶対だからね」

『はい。君が……おれのことが見えなくなってしまっても、

おれは必ず冬には戻ってきますから』

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