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ちびまるフォイ

闇金ちびまるくん

ここはみんなの聖地・カクヨームランド。


みんなの妄想や理想や夢小説や自伝や自慢や愚痴を

小説という名の媒体で発散したりするアンダーグラウンドな場所だよ。


「入園登録してもう1ヶ月。

 でも、まだまだ飽きないなぁ。今日は何をしよう」


読者ちゃんはランドに入ってたくさんの人の作品を見て、

自分でもたくさんの作品を投稿してはコメントされたり

お気に入りさんにはフォローしたりされたり。


「作品」という自分の暗部を見せたうえでのつながりに、

他のSNSにはない深い絆を感じて楽しんでいたんだ。


「こんにちは、お嬢さん」


「あ、どうも」


「あなたの作品、いつも読ませてもらっていますよ。

 悪役令嬢が巨大ロボットに乗って、

 イケメンと恋愛する小説、とても面白いですね」


「わぁ、嬉しいです。読んでくれているんですね。

 あなたの名前は?」


「私、こういうものです」


渡された名刺には『ちびまるフォイ』と書かれていた。


「ちびまるフォイ、さん?」


「おや、あなた気付いてないんですか?

 ちょうど昨日、私をフォローしてくださいましたよね」


「……あ、ああ!! 思い出しました!!

 なんか、エジプト壁画の人がハローワークに行く話!」


「思い出してもらえましたか。では、払わないと」

「え?」



「 受 信 料 」


そいつの目には先ほどまでの慈愛に満ちた色はなくなっていた。

すでに獲物を狩る肉食動物のような目をしていた。


「じゅっ……受信料……?」


「あーー。あなたはまだ登録して日が浅いのでご存じないかもですが、

 実はこのランドでは公式から認可された"有料作家"がいるんです。

 で、その人の作品をフォローしたり閲覧したりすると、料金が発生します」


「え、ええ……!?」


「いや、わかってます。あなたも悪気がないんですよね。

 気付かなかっただけですから。

 でも、ほら。ちゃんと手に入れたものはレジを通さなくちゃ、ね」


読者ちゃんは納得いかなかった。


まるで自分の考えや意思を無視して、

「すでにそうなっているから」と紋所を突きつけて財布に手を突っ込もうとしているその精神が。


「ま、待ってください! どうして払わなきゃいけないんですか!

 ただ読んだだけじゃないですか!」


「君ね、連載や投稿するのがどれだけ大変か知っているのかい?

 モチベーションが無くちゃとても続けてられない。

 ところが読者と来たら、CMでも見るかのように読み捨てていく」


「……」


「コメントも★も入れてくれないのにモチベなんて維持できない!

 ネタに尽きたときにアイデアも提供してこない!!

 だったら、せめて料金を支払って、こっちのモチベーションを上げてくれよ!」


「そ、そんなの知りませんよぉ!」


「ま、君がどう思おうと勝手さ。これを見てみるといい」


そいつは登録時の利用規約書の小さな文字を、顕微鏡で拡大した。

そこには一部の作品は有料公開されている場合があります、という文面がミドリムシより小さい文字で書かれていた。


「ね? ちゃんと規約に書いているんだよ。

 君はこれに同意して登録した以上、ちゃんと払う義務がある。

 作者のモチベーションを上げる見返りを渡す必要がある」


「……今からフォロー解除したらダメですか?」


「すでに食べ終わってから、注文キャンセルしたところで

 お金を払わなくていいことにはならないだろう?」


「そもそも注文した覚えがないんですよ!!」


読者ちゃんはまるで身代金でも請求されているような気分になった。

あんなに楽しかったランドは、灰色で真っ黒く、金ぎたない空間になっていた。


「ちなみに、いくらなんですか?」


「読了ぶんと、フォローしたぶん、お気に入り登録もしてるよね?」


「解除します! ちびまるフォイを解除します!!」


「あ、もう遅いから。私が請求にきた段階で登録されていれば

 それはもう徴収対象になるから」


「ううぅ……」


「しめて、6800ヨムだね」


「たっか!!!」


リアルに高い金額を請求されて読者ちゃんは驚いた。

6800ヨムもあれば新作ゲームも買えるし、1泊の旅行だっていけそうな額。


「なんであんなよくわからないものを読んじゃったんだろう……」


「これで学んだと思えばいい勉強代になったじゃないか」


ちょいちょい上から目線の物言いにイライラさせられる。


勉強代もなにも、作品を開いたときに警告出すとか、赤字で書くとかして

わかりやすくしておけば、わざわざ本人の元まで徴収する手間もないし

こっちだってこんな不愉快な思いをすることはなかったのに。


「6800ヨムなんて……持っていません……」


「うーん。まあしょうがないね。

 実はお金以外にも納入方法があるんだよ」


「ほ、本当ですか!」


「ああ、宣伝納付という方法でね。

 私の作品の読者を増やすよう宣伝することで、

 作品受信者数に応じた分が納付金額から引かれるんだ」


「え……」


「つまり、たくさん私の作品を不特定多数に見せればいいんだよ。

 そうすれば君の納付額は免除される。簡単だろう?」


読者ちゃんは考えた。


自分のことをフォローしてくれて、暖かいコメントを送ってくれる人たち。

それを自分のためにいけにえに差し出すようなことをしていいのかと。


「……わかりました。宣伝します」


「そうか。それはよかった。

 ただし、有料作家であることは公表しちゃダメだからね。

 それはほら、ここの同意規約第9999条に書かれているから」


「わかりましたって!!」


 ・

 ・

 ・


それからしばらくして、ちびまるフォイの投稿にはたくさんの応援コメントが届いた。


ちびまるフォイはワイングラスを片手で回しながら

ひざの上で眠るペルシャ猫を撫でまわしながら葉巻をくゆらせていた。


「わっはっは!! いやぁ、宣伝効果ありまくりだな!!

 こんなにコメントや★がついて、ランキング常連だぜ!!


 ランキングに入れば物を知らない一見さんが入って、また徴収できる!

 なんて完璧なサイクルなんだ!!」


大量のコメントを見ながら悦に浸る人の前に、読者ちゃんがやってきた。


「やぁやぁ、君か。よく来てくれたね。

 君がたくさん宣伝してくれたおかげで、ごらん、こんなにコメント頂いちゃったよ」


「よかったです。それで……」


「ああ、君の納付額のことだね。もちろん免除してあげよう。

 だってこんなにたくさんの、読み切れないほどのコメントが届いたんだもの」


読者ちゃんは顔を横に振った。


「いえ、今日来たのはそのことじゃないんです」


「え? それじゃなにしに来たんだい?」


読者ちゃんは規約をつきつけた。



「ご存じないんですか?

 有料作家からコメントや★をもらうと、

 そのコメント数だけ受信料がかかるんですよ」



数千にもおよぶ有料作家からのコメントを受信したそいつは間もなく自己破産した。

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