私は、きれい。

『私、きれい?』

『はい』

『はい』

『はい』


『これでも?』

『加工乙www』

SNOMスノムの性能の証明写真w』

『謝れしww』


「はぁ……」


 夜道がとても危険になってしまった現代、その煽りを受けている怪異の代表格は自分だ、と思いながら、口裂け女は自室でワインをあおる。

 今や、見知らぬ子どもに声をかけた時点でレッドカード。その勝手がわからず、ここ数年間で何度も警官に職務質問をされている。


 仕方なしにSNS上で自身の写真を公開しているが、如何せん口許を隠した自撮り写真は、予想以上に蔓延している。彼女の投稿する写真はそれに埋もれ、更に匿名性ゆえの毒舌の波に曝されてしまっているのが現状だった。


「飲ーまなきゃやってらんないってのー!」


 ドンドン!


『うるさいよ!』

「あっ、はいすみません!」


 壁の薄いアパートの隣人もなかなかに口うるさい。自分の生活音は気にしないのに……と愚痴をこぼしつつ、ちびちびとワインを飲んでいると。


「大変そうね、あなた」

「はい?」


 突然、声をかけられた。

 いつからいたのか、黒いドレスの少女が優雅な微笑みとともに口裂け女の背後に立っていた。予期せぬ来客に、裂けた口も出しっぱなしである。半ば強引に「ねぇお嬢ちゃん。私、きれい?」と尋ねたところ。


「今のあなたでは、誰からも注目されないわ。だから、わたしが変えてあげる……」

「えっ、なに――、あれ? いない……?」


 部屋の中に、もうドレスの少女はいなかった。


 * * * * * * * *


「ねぇ知ってる、『口裂け女』?」

「知ってる、見たらヤバイんでしょ」

「口がすっごい裂けてて、最初マスクして『私きれい?』とか訊いてきてさ……」

「綺麗って答えたら『これでも?』って口見せてくるんだよね」

「隣の学校の子、見たんだって」

「ええっ!? じ、じゃあ口は……」

「その夜から段々……」

「うわ、やば……、……」


「ねぇ、お嬢ちゃんたち」


「「…………っ」」


「私、きれい?」

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