ボーナストラック

 薄暗い室内の中央付近で、洋平は手持ち無沙汰になりながらそのときを待っていた。両隣には緒乃花と詩音がいる。詩音はこのような場所に来るのが初めてらしく、やけにそわそわしているようだった。

 命かながら逃げ切ったあと、僕たちは今日を迎えるまで再び揃うことはなく、今日は沙月の呼びかけにより集まることとなっていた。

 「そういえば、聞きたいことがあったんだけど」

 どちらかが反応してくれればと思って洋平は尋ね、先に緒乃花が返答した。

 「なんですか?」

 「どうして、僕を助けたとき、君たちはまるでチームのように乗り込んできたの? たしかにそれぞれ僕と一週間以内にかかわりをもっていたことは事実だけど、君たち同士が関わっているわけじゃ……」

 「それがね、関わっていたんです。意外な形で」

 緒乃花がなにかを思い出したように笑う。洋平はいまだに見当がつかず、しいてあげるなら敵が同一人物であるといった程度だった。しかし、それでは辻褄つじつまが合いそうにない。

 「まずは私と詩音ちゃんですけど、それぞれ塾の先生と生徒の関係でした」

 「なるほど」

 緒乃花は大学生時代塾講師としてアルバイトをしていたと語っていた。一方で詩音は塾に通わせられていたはずだ。

 「そして、詩音と沙月さんの関係性ですが、これも先生と生徒。そして、実は裏口入学させたボーカルの娘っていうのが」

 「詩音ちゃんなの?」

 「ご名答です」

 たしかにボーカルと詩音の父親が同一人物だとしたら、そういうことになるだろう。

 「最後に私と沙月さんの関係ですが、私が広告代理店を目指したきっかけって覚えていますか?」

 「えっと……、一般応募のキャッチコピーに心を打たれたとか」

 「そうです。そのキャッチコピーを応募した人物名をしっかり覚えていたんです。そして、沙月さんと出会ったとき、フルネームを聞いてピンときました」

 「まさか同じ人物だったの?」

 「ええその通りです」

 そんな偶然が重なるものだろうか、洋平はあっけにとらわれた心持となる。さらに詳しく話をきくと、洋平と別れた三人は、洋平が殺される当日に事務所周辺をうろうろと見張っていたそうだ。そして、最初に詩音が緒乃花と沙月の存在に気付き、話しかけたのだという。三人はすぐに意気投合して、作戦もスムーズに決まったんだとか。

 「にしても、あそこまでうまくことが運ぶとは……」

 「私たちも内心冷や冷やしながら乗り込んだんですよ。ですが、そのときにあなたに言われたことを思い出したんです」

 「僕がなんか言ったっけ?」

 「はい。勇気がくひとことをくれました。巴投げをしたとき、最高でしたよ」

 緒乃花はにっこりと笑顔をみせた。洋平はイマイチ真相がわからず頭をいてしまう。

 「自分の行動次第で運命のシナリオを書き換えることもできるってこともわかったよー」

 今度は詩音がクスクスと笑っている。まぁ、よくわからないが皆が楽しんでいるようならよかった、洋平はそうまとめておく。

 「沙月さんもお礼を言いたがっていましたよ。洋平さんには英雄になるチャンスをもらえたって」

 「それは比喩かなにか?」

 「どうでしょうね。それはそうと、沙月さん、キャッチコピーのセンスが抜群なだけあって、実は中学校教諭のかたわら、作詞家としても活躍しているんですよ、知っていましたか?」

 「それは知らなかった」

 「ほら、最近亡くなった有名なロックスターの曲も手掛けていて、たぶん、今日も披露ひろうすると思いますよ」

 緒乃花がそういった直後、室内全体に歓声が沸き起こった。室内前方はステージとなっていて、ドラムセットやベースが並べられている。やがて、ステージのライトが点灯し、三人のメンバーが出てきた。中央後ろ側にドラムが座り、前方二手に分かれてベースとギターが立つ。ちょうど三角形をえがくような立ち位置だ。そして、それぞれ楽器を弾く準備をはじめ、やがてすべてが整うと、ドラムがスティックを軽快に四回鳴らした。

 眩しいくらいに光を浴びた沙月が、マイクをかまえて、高らかに歌う。

 

 僕たちは英雄になれる

 僕たちは英雄になれるさ

 僕たちは英雄になれる たった一日だけは

 僕たちは英雄に

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スクランブル うにまる @ryu_no_ko47

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