エピローグ:新たなる希望

 あれから数日が経過した。

 あれ以降、アレッホの街では強盗事件は起こらなくなった。だが、アトレア同盟は変わらず街に居続けた。彼女らの罪を暴こうにも、シャムロックを奪われた今、彼女らが加担していたという決定的な証拠は何一つない。アトレア同盟を追い込むことができず、イツキ達は唇をかみしめることしかできなかった。

 また、窃盗団のアジトで見つけたルイス・アーヴィングと窃盗団が結びついていることを匂わせる証拠品も、アトレア同盟により没収となった。シャムロックを人質に取られている以上、イツキたちがアトレア同盟に抵抗する術は何もなかったのだ。

 結局、アトレア同盟との勝負に敗れ、全てを失った今、これ以上この街に留まるのは危険であるというアオイの判断に従い、イツキ達はアレッホの街を離れることとなったのだ。

 アオイとミナトはこの件について異世界人権連盟に報告を行なった。連盟側はこの事態を重く見て、近く増援部隊を派遣することを決定し、アオイとミナトについてはこの世界に残留することが決まった。

「このまま黙ってなんていられないわよ。絶対にシャムロックを取り返して、アトレア同盟を断罪してやるわ。殴られた分も、絶対に仕返ししてやる」

 アオイは決意を新たにしたようだった。

 ミナトは度重なる命令違反に灸をすえられたようだったが、これまでの実績を考慮し、当面はアオイのサポートを続けることとなった。

「次からは、アオイの冷静さを見習って、どんな時でも冷静に行動し、必ずや任務を完遂する所存です。皆さん、引き続きよろしくお願いいたします」

 まだまだ引きずるものはあるだろうが、ひとまずアオイ達の決意は固まったようだった。

「アオイちゃん、リアさんの容態はどうなの?」

 あの戦いの後病院に担ぎこまれたリアは、必死の治療の甲斐もあり、なんとか一命を取り留めることができた。そしてその後、彼女は連盟の本部がある世界の病院に移されたのだが……。

「身体の方は元気よ。でも、まだ意識は取り戻しそうもないって……」

「そうなんだ……早く良くなるといいんだけどね……」

 サラは涙を堪えてそう言った。相変わらず子供らしいところが目立つが、ここのところ彼女は泣かなくなったとアオイは思った。

(多分、その原因はイツキにあるんだと思うけどね……)

 あの戦いの後、イツキは全く笑わなくなってしまっていた。サラやアルトがどれだけ励ましても、彼女はシャムロック達のことが引っかかるのか、表情は強張ったままであったのだ。

「……イツキ、大丈夫かしら」

「まだ時間はかかるでしょうね。あんな目に遭っちゃ、ショックを受けるのは仕方のないことだと思うわよ」

「そう、ね……彼女に付いていたいけど、でも……」

 言いにくそうにしているアルトの肩をアオイが叩く。そして優しい声色でアオイが言った。

「事情はイツキだって分かってるわよ。あんたがあたし達に関わっていることがアトレア同盟にバレないようにしようって言い出したのはあいつなんだしね」

「それはそうなんだけどね……」

「まあ、それでも心配だって言うなら、時々は連絡してあげなさい。あんたと話すだけでも、あいつだって多少は気が紛れるだろうしね」

「……分かったわ」

 アルトはイツキのことを心配しながらも、一度アトレア同盟の本部に戻ることを決めた。

「あんたにはこれからも色々とお願いすると思うから、よろしく頼むわ」

 アオイはアルトに対して深々と頭を下げた。するとアルトは慌てて言った。

「あ、頭なんて下げないでよ! なんか、そう言うのはあまりアオイらしくないと言うか……。あなたがいつも通り胸張っててくれないと、なんだか色々と心配になるわ……」

「胸張ったところで、胸のデカさではあんたには到底及びはしないけどね」

「そ、そういうことじゃないでしょ! 胸の大きさなんてどうでもいいわよ。最初は横柄なあなたのことは苦手だったけど、今は凄く頼りにしてるのよ。私から言うようなことじゃないけど、なんとかイツキのことを支えてあげてちょうだいね」

 同じく頭を下げるアルトに対し、アオイは若干顔を赤くして目を逸らしながらこう言った。

「まあ、あんたが気にして調査に集中できないのもアレだし、イツキのことはあたし達に任せときなさい。なるべくあんたには心配かけないように頑張るわ」

 アオイの言葉を聞き、アルトは多少安心した表情を見せた。

 そしてアルトが離れ、一行は再び当初の四人となった。

 四人に相変わらず笑顔は少ない。それでも下を向いている余裕はない。歯を食いしばり、彼女らは次の街へと旅立ったのだった。

「……で、さっそく道に迷ったわけね」

「すみません……ちゃんと地図の通りの方角には来ていたつもりだったんですが」

「でも、なんかあちこち土砂崩れやら工事中やらで遠回りした訳だし仕方ないんじゃない? ミナトちゃんは悪くないよ」

 よしよしとミナトの頭を撫でるサラ。ミナトは照れくさいのか、顔を真っ赤にして地図に顔を埋めていた。

 すると、辺りに目を凝らしていたイツキが何やら気になるものを見つけたようだった。

「ねえ、ちょっとみんな」

「何よ? イツキ」

「あっち見てみてよ。なんか建物みたいなのが見えるよ」

「え? でも地図にはこの辺りに街なんてないはずだけど……」

「確かにありませんが、この地図が古い可能性もありますし、もし本当に街があるなら非常に助かります。これ以上何も見つからなければ野宿は確実ですし、食べ物もロクにありません。わたしとしては、是非とも寄っていきたいところですね」

 既に彼女らは二日連続で野宿を強いられており、食べ物も底をつきかけていた。この状況での街は渡りに船と言ったところだったのだ。

 結局アオイはミナトの提案を飲み、街らしきものを目指すこととなった。

 しばらく歩き、ようやく彼女らはイツキが見たと言う建物の近くにたどり着いたのだが……

「これって、本当に街なのかしら……?」

 イツキ達が見つめる先にあったのは、住居よりも要塞と言った方がよさそうな建物であった。

「なんだか無茶苦茶怪しいわよ……。もしかして、アトレア同盟の施設とかじゃないの?」

「あり得ない話ではないですね。地図に載っていないのも、秘密裏に研究を行っているからという可能性があります。わたしから提案しておいて言うのもアレですが、危険そうなところには立ち寄らない方が無難です。すぐに引き返して……」

「待て! そこの四人組!」

「早速見つかった!?」

 上方から大声で呼び止められた四人は思わず固まってしまった。見上げると、やぐらのようなところから二人の女性がこちらに来るように合図をしているようだった。

「サラ、魔力生成を……」

「分かった……」

 すぐに逃げ出せるよう、こっそりサラに耳打ちするアオイ。すると、向こうからやぐらにいた二人組の女性がこちらにやって来た。

「……って、ええ!?」

 その二人の服装を見て、イツキ達は思わず声を上げてしまった。

 それもそのはず、彼女らはなんと、ビキニなどの布の少ない服を着ていなかったのだ。片方の女性は剣士のような騎士甲冑を身にまとい、もう片方の女性は長めの白いローブを着用していた。それはまるで、RPGゲームさながらの衣装であった。

「なんだ!? まさか逃げるつもりじゃ……」

「ち、違います! 逃げないので安心してください」

 二人の女性は尚半信半疑であったが、手を挙げているイツキ達を見て、警戒しながらもゆっくりと近づいてきた。そして女性達は眉をひそめながらイツキ達に尋ねた。

「ここに何しに来た? まさか、アトレア同盟のスパイではないだろうな……?」

 すると、女性達の質問に対し、アオイは食って掛かるような態度でこう言った。

「スパイ? まさか、あたし達はその逆よ。あたし達はアトレア同盟を倒すために旅をしているの。あんなやつらと一緒にしないでくれる?」

「あ、アオイ、それは少し刺々しすぎるのでは……」

 アオイは自覚があるのか「うっ……」と口ごもる。だが、二人の女性はそれに対して意外な反応を示したのだ。

「そこまで言うのなら、どうやら本当にアトレア同盟ではないらしいな。やつらはアトレア同盟に所属していることに並々ならぬプライドを抱いている。本当に所属している人間ならそんなことは言えまい。それに服装も、本当にアトレア同盟ならもっとハレンチな格好をしているはずだ」

 女性の言葉に納得し頷く四人。するとイツキが尋ねた。

「あの、それでここは何なんですか?」

「おう、そうだったな。……うむ、君達には見せてもいいだろう。よし、我々に付いてきたまえ。リーダーの元へ案内しよう」

 二人はそう言うと、イツキ達を要塞の内部に案内しようとする。

 いったい彼女達が何の組織に所属しているのか、そしてそのリーダーとはいったい何者なのか、それは全く分からない。だが、彼女らがアトレア同盟に敵対していることだけは間違いなさそうだった。

「イツキ、どうする?」

 アオイが尋ねる。するとしばしの思案の後、イツキはハッキリとこう答えた。

「行こう。もしかしたら、現状を打破する何かがあるかもしれない」

 イツキはまっすぐ前を見つめている。そんなイツキの様子を見て、アオイは思わず笑みを漏らした。

「あんたならそう言うと思ったわよ。いいわ、行きましょう」

 アオイがイツキの背中を叩く。イツキはアオイに笑みを向けた。

「さあ、行こう」

 イツキが皆に宣言する。そして彼女達は二人を追い、要塞の内部へと進んでいった。


 辛い出来事を経験し、守りたい人も守れなかった。だがそれでも彼女は投げ出さない。諦めない限り道は続く。希望は生き続ける。

 今度こそ必ずアトレア同盟を倒し、シャムロックを助け出す。そしてこの世界に自由を取り戻す。道のりは険しい。だが、彼女は一人ではない。サラをはじめ、同じ希望を抱き続ける仲間がいる限り、彼女が諦めることはきっともうないはずだ。

――イツキは再び、前を向いたのだった。

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アンチビキニガールズがぶちのめす! 遠坂 遥 @Himari2657

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