第10話 歌姫と水の試練

「ちょっとそのコンテストについて詳しく」

知りたいだけだったのが、ウチとサビナで両方エントリーされてた。解せぬ。


夜、パイシズの宿、「海底神殿亭」の食堂にて。勝手にエントリーされた話をしたら、男性陣に「あー」って顔された。なぜに?

「ここらの名物なんだよなぁ。毎年一回開かれる。」なんでこう上手くかぶっちゃうかね、って感じのことをランスがつぶやく。ウチも知りたいよ。

「でも勝ったら次の魔獣の所に行けるんでしょ?」サビナが身をテーブルの上へと乗り出す。おちつけ。

「だったらやってみる価値あるかもね。」カシスが頷く。

「マリ様なら勝てるとは思いますよ。」アーサー、なぜ断言する。ウチにサビナ並のスタイルはない。

「……勝った女だけが魔獣の元へと行くのか、同行者はいて良いのか。そこが疑問だ。」そしてクールに考察するラクト。そこそこ、ウチもそこ気になってた。

ってか。

「勝った女性だけが魔獣のお膝元ってもはや生贄ちゃいませんかね?」

ウチ達の座るテーブルだけ、ちょっと静かになった。


さて、そんな感じになっても朝日は容赦なく登る。コンテスト開催。

特設ステージらしき場所に上がってみたらなるほど、大勢の男たちがガヤガヤしている。すっごい熱気。周りを見渡すとウチ含めて25人の女性。

プログラムはこうだ。

まず全員台の上に出る。それぞれ小さく自己紹介。そのあと一人ずつ小さくアピール。男達が一番と思った女に投票して、投票数の一番多かった女が勝つ。

まぁいたってシンプル。

ウチのような平凡な女は後ろに回されて、サビナのような美人さんは最初の方に回される。うーん、顔面偏差値格差社会。平凡顔ですまんかったな。

「6番の女性、名前と職を。」

「サビナ=ラスティス、ギルド所属の魔法使いです。」

結構ロココくらいの時代かと思っていたけど、こういうことに限って現代的だよなこの世界。エントリーナンバーって言わないのがせめてもの救いか。

と、ウチにマイクもどきが回ってきた。片手で持てる杖に音声増幅だけの魔石(多分)がはめ込まれたやつ。ほんっと無駄なとこで現代よなここ!

「では……25番の女性、名前と職を。」ウチたちをエントリーさせた男の声がする。あいつが司会かよ。

でも、これだけは自慢できる。

「マリ=ホワイトリバー、歌姫です。」

どよめきが走ったけど意図的な宣言です。


アピールタイムが始まった。一番目からお色気ポーズだの髪の毛自慢だの女らしい。いや、ウチも女ですが。

サビナは全属性の魔法を少しずつ出すという、実用的で得意そうなアピール。魔法の道を嗜んでいるであろう男性たちからは歓声が上がる。

そこからはまたお色気タイム。パターン一辺倒でつまらん。変わり種といえばナイフジャグリングした女性かな。旅の芸団のお方と見た。

「さて、本日最後を飾りますは自称歌姫、25番のマリさんです。どうぞ。」

っと、司会の声がする。ウチの番かぁ。自称て。

「整いました」と一言、ステージに上がる前に言っておく。そしてステージのど真ん中に来た瞬間。

「おーい、忘れ物だぞー!」

その声とともに投げ込まれる物体。


この声が知らない男だったらヤジやブーイングの類だったろう。

でもこの声、知ってる人なんだよねぇ。

武器屋に立体音響を回収してほしいと昨日の夜頼んでおいた、ランスの声なんだよねぇ。


「あんがとっ!」とうまく立体音響をキャッチ。落とさなくてよかった。

親指で伴奏石をぴんっと弾き、音が出るようにひねる。

ウチのアピールはこれからだ。

外部からのサポート禁止、と言い忘れた己を恨むが良い。


「♪情状酌量の余地ナシ、まるでお話にならないわ 壮大なロマン語る前に現状分析できてる?」


ああ、キミって鈍感。


そりゃウチが逆転一人勝ちしましたよ。言ったよね、ウチ歌姫って。歌で男らを魅了することなんて容易いんです。ってかそれ系のラブソングが多いって話でもあるかな。

司会がウチを前に出して宣言する。

「これよりこの方に商品である、『龍神様のお膝元へと快適な船旅』へと招待いたします!」

言ったな?

「すいませんが、それは私だけでしょうか? 友人たちも連れて行きたいのですが。」とカマをかけてみる。この質問への返答で作戦は変える。


「まさか! あなた様だけのための船旅です!」


よし、ウチが勝ってよかったパターンだ。


昨日の夜からずっと考えていた。

なぜ、「生贄」ってワードにあれほど人が反応したか。

つまりはそうなんだよね。

美しい娘を海の神に捧げて、一年の平穏と大漁を祈るってタイプ。それなら一年に一度コンテストが行われるのも合点が行く。

でも同じことを何年もしていればいずれはバレる。

だからウチやサビナのような、「街の事情を全く知らない客人」をメインにあのコンテストは構成された。


ウチ達は海原の大蛇を倒したい。が、居場所がわからない。

この町の皆さんは海原の大蛇の居場所がわかる。が、女の生贄を捧げたい。

コンテストで勝利を狙えそうなのはサビナだけど、大蛇とご対面した時に倒せるかと言われたら答えは否。


ウチの弾き出した答え。

「生贄のふりしてソロで倒してくるわ」


ということでウチは現在コンテストと同日、夜、海の上、船に揺られてます。

立体音響を事前に回収できて嬉しい。が、こんなに揺れるんだね。酔うわ。

「あのー、あとどれくらいですかね?」と船頭さんに聞いてみる。ウチを運んで一人で帰ろうとする魂胆丸見えだぜ。

「あともう少しでしょうね!」と元気のいい答えが返ってくる。

その答え、三十分くらい前にも聞いた気がする。

なるほど、こうやって気を抜かせて船から落とすつもりだろうな。

じゃあ先に呼ぶわ。

伴奏石をひねって、立体音響を海に向けて構える。


「♪何の取り柄もない 僕に唯一つ 少しだけどできること 心躍らせる 飾らない言葉 電子音で伝えるよ」


どこにいるかもわからない、あなたの心に響いてくれや。

「な、何をしてるんだ?!」と船頭さんがパニック。

「討伐準備!」と返してみる。

大きな水の音。船に当たる波とは全く違う音。来たか。

船頭さんから振り向く。

顎を乗せるだけで船を沈めそうな、巨大な瑠璃色の蛇。むしろ東洋龍。すっげ。ファンタジーでしか見れないものがリアルだとこうなるんだ。銀色の腹、ヒゲの先がちょっぴり翡翠、目は赤メノウ。うーん、ゴージャス。

正直怖いわ。


『ほほう、今年の贄は極めて特殊だな?』


うっわ、贄て。そうとしか見られてない。ここでビビっちゃ仕事できないぞ、ウチ。

「あー、っと。アルテリア王国の者です。討伐するようにと王に言われてるんで、まぁ覚悟してくださーい。」

瞬間、大蛇が天をも裂かぬばかりの雄叫びをあげる。

切れるの早くね?

アルテリアに反応したのか、突然大波を呼び起こす大蛇。これ船も壊れるって。

でも対策はある。


「♪深海少女 まだまだ沈む 暗闇の彼方に閉じこもる……」


と、船が大きな泡で包まれる。波は当たったけど壊れはしない。最近のウチの歌効果予測が正確すぎる。どうしたんだろう。

さてと。実はこの歌、ウチが知ってる中で今唯一思い出せる水っぽい歌なんだよね。それが補助系だった今、攻撃する歌に欠ける。

水で攻めるって手段が封じられた今、どうしようかね。

とりあえず。

「整いました」と一声。伴奏石のピアノソロに合わせて、歌い出す。フルで歌ってやるよ。

海の真逆、それは。


「♪Back to the time when I was first born。」


ギターと共に舞い上がる、雷雨に混ざって砂嵐。

混乱するのも無理はない。あんたと真逆の世界をここに呼び出してるんだから。


「♪何もない砂場飛び交う雷鳴 しょうもない音で掠れた生命 今後千年草も生えない砂の惑星さ……」


砂の量が明らかに増える。砂嵐はウチの後ろから吹いているから砂は目に入らない。でも船の帆には無影響。仁王立ちで歌い続けるウチにビビったのか、船頭は隠れた。でもそんなのどうでもいい。


「♪のらりくらり歩き回りたどり着いた祈り 君が今も生きてるなら応えてくれ僕に」


イェイ、と声をあげたら、海から乾いた砂の柱が立った。大蛇を囲うように、八本の砂漠の元。水を呼んで己を守ろうとしても、砂の量と吸水率に空気は乾くばかり。海に逃げようとも、下からも砂は迫り上がる。砂の惑星まではいかないが、牢獄であることは確かだ。

最終的に。


「♪もう少しだけ友達でいようぜ今回は」


歌い終える頃には、砂に埋められ干からびた龍がいた。

バイバイバイ、ってか。やかましいわ。

「……船頭さん、パイシズに戻りましょうか。」

そう声をかけたら、怯えたように船を街へと向けてくれた。


「討伐完了。」船を降りたらすぐそこで仲間達が待ってた。けど。

「そうか。では出発するぞ。」ラクトのその宣言にずっこけた。

「休みなしすか?!」

「マリ様、この街の民は魔獣のことを少なからずとも海にまつわる神と捉えておりました。それを討伐したとなると、怒りと憎しみがこちらに向けられることでしょう。」アーサーが深刻そうな顔で言う。……そういやそこまで考えてなかった。

「だから気づかれないであろう今の内に逃げるんだよ。いこっか。」カシスの号令と共に、全員で歩き始める。

街の外へ、潮の香りから離れて、地図の反対側の大火山へと歩を進め。


「もしかしなくとも、犯罪者?」

魔獣はあと残り二体。

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