第三話 『夢の続き』

 俺は家を出ると車に乗り込み、オートパイロットに真帆の住所を設定した。

 車が浮き上がり。空を移動するのだが現代の車は完全なオートパイロットとなっている為、速度超過をして到着時間を早めることできない。


 昔の車は空が飛べない代わりに自分で操縦する事が出来、速度超過も自由自在であったというのだから驚きだ。


「……どうやって動かすのか分からんしな……」


 そもそもこの車には乗っている人間が行先を操作する方法がタブレットのような液晶画面しか存在していない。


 ◆



 ゆったりとした空の旅に若干の焦燥感を感じつつ待っていると……三十分程で車が止まった。

 ここが真帆の家か……。外観は俺が住んでいる場所と全く同じだな。


「って……だとすると、入れないんじゃないか……?」


 今更になってそんな事に気づいたが、取り合えず扉に触れてみた。


「おいおい、マジか……」


 扉はすんなりと開いた。

 この世界の人間は八段階の階級分けがされており、俺の住民階級は五。それはそれ以下の住民に対しては様々な効果を働く絶対制度。このタイプの扉が簡単に開くという事はつまり、真帆は俺よりも二階級以上下であるとい事になる。


 現実で人と接触すめ事が無いためこの制度にお世話になったのは初めてであるのだが……便利なものだ。

 扉を開け中へと入ってみると、部屋はたった一部屋しか無く、広さも程々しか無い。

 他人の部屋に入ったのは初めてだが、こんなにも階級差があるものなのか……。最低限の生活保障はされている筈なのだが……床に散らばった未使用の栄養補給パックと幸福投与剤から見て、あまり使っていなかったのだろう。


 ベッドの上で横になっている真帆は……プロフィール通りの女の子であった。歳の程も十八歳くらいだろう。

 胸は無いので腰まであるブロンドヘアーでの判断ではあるのだが、間違ってはいない筈だ。ヘットギアを外し、顔を確認して見ると……可愛い。

 若干やつれてはいるものの、俺のアバターに引けを取らない可愛さがある。


「おい、大丈夫か」


「んぅ……」


「良し、息はあるな」


「……おなか、へった……」


 呆れる。

 つまり彼女はよくいるゲーム達と同様、空腹による飢餓のせいで強制切断をされたという訳だ。

 俺は適当に栄養補給パックを拾い、ストローを通してから口に持っていってやった。


「――ッ! ……んっ……んっ……んっ……ぷはっ……」


 凄い勢いで飲んだな……。

 っと、目が覚めたか?


「えっと……誰、ですか?」


「目の前で倒れられたからな。プロフィールに書いてあった情報を頼りに様子を見に来た」


「というとつまり、貴方があの女の子……の中の人?」


「ああ」


「……人物描の上達ってどうすれば……」


「今そこなのか!? 取りあえずきちんと栄養を摂らない小説家になる以前に死ぬぞ!?」


 俺は適当な栄養補給パックをもう一つ手渡してみるのだが……嫌な顔をするばかりで受け取らない。


「おい……」


「それ、おいしくない……」


「好きな味が選べるだろうに、何の味を選んだんだ?」


 俺は栄養補給パックにストローを通し、一口飲んでみると……吹き出した。


「ひゃぁ! ちょ、私にかけないでよ!! うぇぇ……べとべとだよぉ……」


「す、すまん! いやこの味……何だこれ……? パッと思いつくのは昆虫のイモムシ味か……?」


「それしか受け取れないんだもん……」


「は?」


「私の住民階級は一。それだと本当に最低限の生活保障しか無いの。貴方の階級は?」


「五だな」


「うぅ……羨ましいよぉ……」


「働けばいいだろうに。少なくとも二階級にはなれるはずだ。もしくは……他の連中みたく寝る事だな……」


「だってぇ……小説家になりたいんだもんんんん……」


 …………。

 俺と彼女の違いは、こんな生活にに落ちてまで小説一本に熱を注いでいるところなのかもしれないな……。

 この熱意だけは羨ましいもんだ。今のこの時代、こんなにも夢を持って生きている奴も珍しい。


「取り敢えず、俺ん家に来て飯食うか?」


「いいの!?」


「ああ、ただし体を綺麗にしてからだけどな」


 俺は真帆が体を身ぎれいにし、準備が出来るのを待ってから車を出発させた。


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