第24話 無茶

「いい加減にしろ」

 私は元少年の弁護士事務所へ一人乗り込んだ。

「・・・」

 元少年は最初とても驚いた表情をしたが、その後、ずっと黙ってソファに座っていた。

「警察にだって行ったんだからな」

「・・・」

 元少年はやはり黙っていた。

「お前だってことは分かってんだからな。人のこと付け回しやがって」

 興奮する私に対して、元少年は完全に冷静だった。それがまた私を興奮させた。

「おま・・」

「あの人とは別れた方がいい」

 元少年が独り言を呟くように何かを言った。

「なにっ?」

「あの人とは別れた方がいい・・」

「なんで・・、やっぱり・・」

 私は愕然とした。元少年はしまったと言った表情で再び口をつぐんだ。

「なんで知ってんだよ。なんで細井さんとのこと知ってんだよ」

「・・・」

「なんで知ってんだよ」

 しかし、私がいくら怒鳴っても、結局、その後、元少年はうつむいたまま何も言わず黙っていた。


 それから、平和な日々が続いた。付け回されているような、あの嫌な感じが消えた。

「やっぱり・・」

 やはり、元少年だったんだ。私は確信した。

「無茶するよ。お前も」

 私とマコ姐さんは、いつものごとく屋上で、ビル下の景色を眺めながら並んで煙草を吸っていた。

「一人で乗り込むなんて」

 無謀な私をマコ姐さんは、呆れるような、感嘆するような、そんな何とも言えない表情で見ていた。

「でも、なんで私を・・」

「初めての女ってのは、特別なんだ」

 マコ姐さんが煙草の煙を吐きながら言った。

「う~ん」

 私には分からなかった。

「男ってのはそういうもんなんだよ。あたしも経験あるよ。童貞君が通っちゃってさ。しまいには結婚してくれってな」

「・・・」

 本当にそれだけなのだろうか。私は何か釈然としないものを感じていた。

「しかし、なんで一人で行ったんだよ」

 マコ姐さんは少し怒ったように言った。

「マコ姐さんには迷惑は掛けられないから・・」

「お前は何でも一人で抱え込む。悪い癖だ」

 マコ姐さんは微笑んだ。

「はい・・」

「それがお前のいいとこでもあるけどな。でも、遠慮しなくていいんだからな。なんかあったらちゃんと言えよ」

「はい、でも全部終わりましたから」

 しかし、これで、本当に全部終わったのだろうか・・。何か引っかかるものがまだ私の中にあった。

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