第23話 デート

「ふふふっ」

 思わず顔がほころぶ私がいた。私は幸せだった。

 今日は細井さんと店外デートだった。私が海が見たいと言うと、細井さんは真っ赤な外車のオープンカーを借りて来てくれて、それで二人で海までドライブをした。

 そして、今、私は海の見えるきれいな砂浜を細井さんと二人で歩いている。私は細井さんの腕にしがみつくように身を寄せていた。

 細井さんは華奢なようでいて、驚くほど、しっかりとした体躯をしていた。私はそれを体一杯に感じ、そこに男の人の頼もしさを感じた。

 絶対に離したくない、細井さんも、この幸せも、そんな思いで私は細井さんの腕を全身で、どこか必死で握りしめた。


 幸せな時間というのはいつもあっという間だった。目の前にはいつの間にか、人と雑踏のいつもの街の風景が広がっていた。

「・・・」

 私は否応なく現実に引き戻される。そこには日々の生活があり、この社会を構成する多くの人がいた。それに私はこれから仕事が待っている。

「あっ」

 その時だった。雑踏の中にまた元少年の姿を見た気がした。私は呆然とその雑踏を見つめた。しかし、人の行き交う激しい流れの中で、元少年を再び見つけることは出来なかった。

「どうしたんですか」

 細井さんが私を心配して、覗き込む。

「う、ううん。なんでもない・・」

「顔色が悪いですよ」

「大丈夫・・」

「ほんとに、大丈夫ですか」

 細井さんが本当に心配そうに私を見つめる。

「う、うん」

 なんで、また・・。

 気のせい、気のせい。そう自分に言い聞かせるのだが、やはり、私の心の中は、不安と恐怖でいっぱいだった。

「やっぱり・・、あいつが・・」

 その日はそれで細井さんと別れ、私はそのまま仕事に向かった。


「ほんと良い子なんだよ。こう目がね。目がクリッとしててさ、あたしがいないとダメって感じなのよ」

 いつもの屋上でマコ姐さんが、浮かれ気分で新しい男の話をしている横で、私はそれを上の空で聞いていた。

「あれは確かに・・」

 あれは確かに元少年だった・・。

「・・・」

 私はまだ言い知れぬ不安と恐怖で震えていた。

「どうしたんだよ。シリアスな顔して」

 マコ姐さんが私の顔を不審げな表情で見つめる。

「う、ううん。なんでもない」

 私は精一杯の作り笑いを浮かべた。

「そうか、でな、ほんと良い子なんだよ。母性をくすぐるっていうかさ。こう、堪んないわけよ。他の女になんかぜってぇ負けねぇって思わせるのよ。あいつを絶対あたしのものにしてやるんだってさ」

 マコ姐さんは、もう新しい男に夢中だった。

「・・・」

 私はそんなマコ姐さんに迷惑は掛けられなかった・・。

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