おかしいな

 ふう、今日は仕事が大量だったな……。

 俺は重い頭を上げてバスの行き先を見る。よし、これなら家に帰れる。俺は荷物を持ち上げ、ステップを上がり空いていた椅子に座る。午後7時半。すっかり空は黒いけど、街の光は強く輝いている。イヤホンをつけて軽快なロックを流す。疲れが脳内から吹き飛んでいく感覚は、今の自分にこれ以上ない爽快感を感じさせた。

 いやー、それにしても今日は散々だったな……。笑っただけで引かれるし仕事は増やされるし、途中から気が狂いそうになったなw まあ気ぃ狂ったらそれこそ引かれたおされるだろうけど。ほんと、俺を馬鹿にする時の笑顔が一番いい笑顔してるんだよな……みんな。あれですかね? 僕のことサンドバックくらいに思ってるんですかね? ダメだよーそれボクマダニンゲンデスヨー……。てか体育の野球ん時霧島すごかったな、いや元から体育の成績よかったの知ってるけど先生に続いてホームラン打つなんてな。まあその後ボールが体育館の壁ぶち抜いてめちゃめちゃ怒られてたけどw まあ笑ったね。そりゃもうクラス全員が爆笑の渦だったな。いや、今思い出しても笑えてくるな……。

 そんなふうに今日をふりかえっているうちにバスは家の近くのバス停に着いた。俺は混んだ車内をなんとか通り抜け、運転手さんに「ありがとうございました」と言って外に出る。寒空の下、LEDに照らされながら俺は帰路につく。俺は急激に体が冷えていくのを感じた。こんな時にそれこそ霧島とかいればなぁ……、そう思ったことに、俺は違和感を覚えた。頭はとうに冷えきっていた。


 俺はこんなに人肌を欲していただろうか?


 そんなはずはなかった。だって半年前まで虐められて約二年間を1人ですごしたんだぞ!? そいつらが転校しただけでこんなに変化してしまうものなのか!?

 俺は恐怖を覚えた。自分が自分ではなくなったことに今更気づいたような。あの頃の尖っていた自分が誰かに削られているような。そんな凄まじい悪寒。寒い。寒い寒い寒い寒い寒い。


 俺はこれからどうなるのだろう。将来のことを考えて、希望しかなかったのはいつの時代か。将来に縋っていたのはいつの時代か。今はこんなにも怖いというのに。


 俺の家は山の中で、もう車の音もあまり聞こえない。馬鹿みたいに明るく光る電灯の向こうに、薄らと星が見える。その弱々しい光を見たくなくて、俺は足を速めた。ブチりとイヤホンをスマホから抜きとる。我が家はもう目前だ。

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