なんというかまあせかいはつづくんですよ。

 ピシッ。スー。

 慣れた手つきで私は私の手に傷をつけていく。カッターを当てたところから赤黒い、それはそれは色々なものを秘めていそうな色の血が出てくる。

 カリ。カリ。カリ。

 手は止まらない。白い肌の画板に前衛芸術を描いてるような気分だ。身体を高揚感が包み、その手は興奮に震える。体のいろんなところが火照ってる。それすら快感に感じる。

 1、2分後、私はリスカをやめてソファに寝転ぶ。やけにファンシーな時計は12時30分を指している。私はあの高揚感を逃すまいとすっ、と目を閉じ思考も閉じる。

 

 そんな中でも、やっぱり不安というのは侵入してくるもので、どうしようもなくなるわけである。私は静に寝返りを打つ。網膜に文字が張り付いたかなように不安が具現化してくる。明日はどうクラスで振舞おうか、どうせ馬鹿にされるんだろうな、ああ、だるいな、きついな。


 怖いな。


 辛いな。


 寂しいな。


 私の胸のあたりが高揚感とは違うものに包まれ、鼓動は早くなる。手も、震えが止まらない。先程とは別の場所が火照る。私は、するり、と手を伸ばす。そこにカッターはなくて。その手は虚しく空を切って。


 嗚呼、日常よ。カッターより希望がないとは何事だ。

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