しゃかいのしゅくず

 午前12時半。俺は硬い椅子からすくっと立ち上がり、そのままの勢いでソファにうつ伏せに倒れ込んだ。酷使した体はスライムのようにぐたりとのび、本当に溶けてしまったのでは? と自分でも思うほどだった。

 つ、疲れた……

 その言葉が今の俺を支配しているような感じがする。俺はゆっくりと体を回し仰向けになる。いやー、今日は自分でもよく頑張ったと思うよ、ほんと。夏休みなのにね、面倒事ってのは時と場所を選ばないな……。

 俺はゆっくりと今日の出来事を思い出して気持ちを落ち着かせようとした。


 今日の流れ……は、と。

 朝から塾でひたすら勉強

 ↓

 その後ダッシュで学校に文化祭の準備をしに行く

 ↓

 が、もう終わっていた。

 ↓

 なので、取り敢えず掃除した。

 ↓

 家で夏休みの宿題

 ↓

 今ココ!

 以上!


 うん、これ学生の、それも夏休みの学生のタイムスケジュールじゃねえな。ははは、よく生きてんな、俺。てか、終わる時間教えてくれよ……情報の共有が未完成だったところとか自分も反省しないといけないとこもあるんだけどさ……

 てか、掃除……やること自分から増やしてんじゃん……しかもそのお陰でシュールストレミング並の匂いを放つゴミ袋と対峙するハメになった。勇者か、俺は。

 いや、じゃあなんで掃除なんかしようとしたんだよ、っていう話だよな。と思って、振り返ってみた。掃除してる時、どんなこと考えてたっけ……


 数分後。俺は掃除の時見事に意味の無いことしか考えてないことに気づいた。ああ、そういえば今日の夕飯なんだろ、とかしか考えてなかったな。俺は今になって驚いた。いっつもうっせえな……とか考えてたのに……あ、そっか。それはクラスメートがいるからか。一人で掃除してる時はあんなに無心になれるんだな、何それ悲しい奴かよ。

 そんなことを思いながらも、あの時不快感を感じなかったのも事実だった。夜にくつろいでるような、穏やかな感じの雰囲気。人がいないだけであんなに変わるものか。

 うん、変わるな。俺は即答で思った。一人の時は何も考えなくて良くなるから楽だ。たしかに。適当な事考えて、一人で笑って。そんな時間は、案外友達といる時よりも楽しかったりする。大体は一人を嫌うけれど、やはり俺は自分の中で自分のことと向き合って、ゆったりと過ごす時も必要だと思う。人のことばかり考えるのもだるいしね。


 そうだ。確かに一人の方が楽だ。少なくとも集団にいるよりはずっと。


 そんな結論が頭をよぎり、何だそのわがままは、と笑いが出そうになった。一人ですべての問題を解決するなんて無理だ。宿題のプリント学校に忘れた時とかは友達に問題教えてもらうとかしないといけないしね。

 きっと、集団にいる時の窮屈さは、集団の力を使う代償なのだろう。俺はそんなことを考えついた。ものを買う時にお金を払うのと同じ。集団の力を使うのには、等価交換のための何かが絶対にあるのだ。いやはや、この世界もなかなか腐っているな。まるで大人の社会のめんどくさい事が学校に全部詰まってるような気がした。俺達は、そんなめんどくさい生物だったのか、と少し苦笑して、俺は立ち上がった。明日もクラスの集まりがあるんだ、こんなところで駄々こねる訳にもいかない。

 俺は大きく伸びをして、机を片付けると布団に倒れ込むように寝た。時計は午前1時を指していた。掃除のことはみんなに伝えてないから、明日の反応が楽しみでもある。そんな明日を見るためにも、きちんと寝なければ。え、なんで伝えてないか? 理由はそんな大きいことではない。「掃除の名目で女子の机になにかしたりしたんじゃ……」とか言われる流れになるのが嫌だからだ。全く、うちの男子は下らなくて最高に面白い。

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