世界の始まりとアウトサイダー

古都川コウ

open cluster

この身体からだがやがて素粒子となり、跡形もなく消えてしまう運命さだめだとしても、僕はその瞬間まで君を想うのでしょう。もしも叶うのならその先もずっと。


あの時、生まれたのか。


あの時、散ったのか。


きっと、真っ白だったに違いない。


そう、あの時――。


この景色が続くだなんて、考えてもみなかったことが起こりうる。

一度まばたきしたら世界がぐにゃりと曲がった。途端に遠くの街でファンファーレが鳴り響き、どこからともなく鳥たちがいっせいに羽ばたいた。その様子を眺めていたのは僕のほうなのか、鳥たちのほうなのか……。 考えているうちに醒めない余韻を泳ぐ魚たち。


星を懸命に探したけれど、今夜はどうにもこうにも見つからない。何の躊躇いもなく手放した玩具のプラネタリウムに後悔の念を載せていたら、星のひとつやふたつ映しだせたでしょうに。


心を入れ替えたふりをして、取り戻した玩具の威力はすさまじい! まがい物の星たちは眼前を近づいたり遠ざかったり、最新鋭のホログラムさながらの動きで挑発してきやがるんだ。僕の小さな頭なんて吹き飛ばされてしまいそうなほどの目まぐるしいスピードで駆けめぐる。ちったぁ、手加減してくださいよ、なんて弱気な僕も可愛いでしょう? この状況下でそんなことを考えられる僕ってお茶目だなぁ。


燃え尽きる命を嘆く人の声は聞きたくない、と耳をふさぐのは我慢ではなく弱さでしょう。ええ、君に言われなくても重々承知していますとも。あの時の僕は何処に立っているのだろうか。そう訊ねるのは君だろうか。それとも見知らぬ旅人だろうか。はたまた旅人は僕だろうか。


意気揚々と旅立つ僕は絵空事のように現実を貪り食うのだが、やがてもがき苦しみ右往左往する。孤独と共に海を眺める日々に感謝したいと嘯きながら泣くのだろう。目が覚めても夢の中、可憐なオルゴールの音色だけが頼りなのさ。


君と僕はお間抜けな顔を見合わせている。

依然として星は生まれずにいるのだろう。


笑っていたのは星なのか僕らなのか、それすらも掴めないとは不甲斐ない、君に会わす顔もない。夕陽とやらが綺麗だ。せめてもの償いとして君にもお見せしたい。こころが溶かされてゆく音で眠りたい。夜の帳が下りる。ようやく星たちが瞬くよ。君も空を見上げてみるといい。僕らが散々手を焼いてきた奴らは澄まし顔で星座とやらを形づくる。


ねえ、君は今ごろ何処をほっつき歩いているんだい。

ちっぽけな僕には知る由もないけれど。


手のひらが温かいこと。君によく指摘されていたことを思い出す。そのことがひどく滑稽に思えて可笑しい。いつかの魚たちに薄汚れた涙の海を解放しよう。どうか長生きしてくれたまえ。


ほら、わずかばかりの希望の灯が小さくなる。


さようなら――。


やがて僕も星になる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界の始まりとアウトサイダー 古都川コウ @ko_oigawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ