第15話 トイレット・オーバーキル

——サカ鬼さん、龍矢さん。一体どこで何をしているんですぅ〜?——

——今すぐ戦場に駆けつけてください、大学が襲撃されていますぅ〜——

「そうは言っても、ケツから酒が止まらない」

「右に同じだ、トイレが清潔でよかったよ、うががが!」

 二人はトイレの個室に閉じこもっていた。

「ちくしょう、酒でも腹を下さない俺が、大福アイスで腹を下すとは」

「ドラゴンの胃袋はこんなものだったのか? すっごいショックを受けている」

 ミズノが情けなさそうに、

——あんなくだらない勝負してるからですぅ——

「あん? ミズキ、酒も飲めねぇ女が言っちゃいけねぇことだ」

「そんなこと言う前に爪の手入れをしたほうがいい、見た目は綺麗だが清潔じゃないはずだ」

——ああ言えばこう言うですぅ——

 すると、二人は呻きながら腹を抑えた。

「おいドラゴン、このままじゃラチがあかねぇ、お前の分も代わりに出しておいてやるから早く戦え」

「ふざけるな! 酒飲みすぎて頭悪くなったのか!?」

「うがががががが」

「腹がああああああ!」

 ミズキが情けなさそうな声のままミズノに尋ねた。

——先輩〜、これどうしたらいいんですかぁ〜?——

——ミズキ、私は今よしきのオペレートしているから後にしてちょうだい——

——そんなですぅ〜——

 その時、サカ鬼が思いついた。

「そうか、俺たちが便所に入ったまま戦えばいいんだ」

「なに? 便所に入ったまま?」

「龍矢、お前がドラゴンに変身して翼と尻尾だけを便所から出して攻撃、その間に俺が腹のなかの門を出し切る!」

「どういう原理だよ!?」

「まだ話の途中だ!」

「それ以上話して何の解決になるんだ!」

「その後、俺が便所から出てきてお前が大便を出し切るまで全力で死守する! よし、完璧だ」

「どこがだ!? 同じ便所に入るだけでも不潔だというのに!」

——作戦はわかりましたですぅ——

——今から二人を一つの便所に転送しますですぅ——

「汚いからやめてくれ!」

 サカ鬼が腹を下しながら、

「うがが、ついでに戦場に送ってくれ! 話はその後だ!」

——わかりましたですぅ——

「汚いからやめてくレェ!」

——転送ですぅ〜——

 サカ鬼と龍矢は便所ごと戦場へ転送されてしまった。


 シュバ!

 便所が二つ転送された。中ではまだうめき声が聞こえる。

——転送しましたですぅ〜、多分——

「そうか、だが龍矢がいないぞ。うががが、あいつがいなければ戦かえない」

「俺は隣だぞ、そして同じ便所に入るのは勘弁だ」

——サカ鬼さん、龍矢さん。お腹下しているところ申し訳ないですぅ〜——

——そこはかなり危険なので今すぐ避難をお願いですぅ〜——

「そんなこと言われたって! ドラゴン! 早くこっちに移れ!」

「バカ! 本気で拒否する!」

「そんなこと言ってる場合か! ほら、早くしろ!」

「こら! トイレを蹴るな! 揺らすな揺らすな!」

——早く避難をぉ〜——

 サカ鬼がトイレを揺らしてしばらく、便所の留め具が外れた。

 個室が張りぼてのように壊れて、様式の便所に座った二人が、露わになった。

 しかし、それより驚いたことがある。

 目の前の景色は、どこか高いところにいる気がする。

 よく聞くと、争いの音はかすかで、凄まじく風を切る音が耳を塞いでいた。

 足元が茶色で砂漠の色とは違う。何か巨大な岩の上のようだ。

「「ここはどこだ?」」

——隕石の上ですぅ〜——

「「なんだって!? なんでそんなところに!?」」

***********************************

「らしくないな。手のエネルギーは10秒も我慢ならん! 隕石はあと何個だ?」

——あと10個です——

 それを聞くと彼は鼻をこすって、

「連れて行け、一番でかい隕石の前に」

——了解、転送します——

***********************************

 サカ鬼と龍矢の前に突然、黒の装飾この上なくうるさい姿が現れる。

 両拳には青筋を当てて、とても大きなエネルギーを堪えているように見えた。

「よっしゃ、これだな!? 吹き飛ばしてやる!」

「「ちょっと待って詠嘆のエクレツェアあああ!」」

「最大火力、Xバースト!」

「「ぎゃあああああああ!」」

——ごめんなさいですぅ〜——

 なお、反省はしてない模様の彼女だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る