第60話 今日は会社休みます
まさに、その瞬間であった。
「ニャニャニャー! レベッカ様のお帰りニャー!」
間が悪い間が悪い間が悪い間が悪い間が悪い!
まさに最悪のタイミングで、猫娘のバリバリトークが3DLから飛び出してきた。レベッカはそろばんをバチバチ叩きながら、物凄い勢いでコチラの世界に這い出し、例の如くとんでもない勢いで喋り倒す。
「ああもう、儲かっちゃって儲かっちゃって仕方無いニャ! ラプトルの素材、びっくりする値段で売れちゃったニャよ~、これでユー達にちゃ~んと報奨金を出せるニャ! それと聞いてくれニャ、借金取りどもが光一を用心棒に雇いたいニャって言ってるニャ! すっさまじい高額報酬ニャよ! ミーの未来の旦那様たるもの、これは受けて貰わないと困るニャ~! ちょっと聞いてるニャか~? ねぇ、光一!」
と言ったところで、レベッカと俺の視線がバチンと合った。
レベッカは「恐ろしい物を見た」と言わんばかりに、茫然と立ちつくしている。折しも俺のヨコシマな手がフィーリアのスカートに手を入れ、今からまさに服を脱がそうとしている、最悪なシーンであった。
……本当にこういう時って、どういう顔をしていいか解らない。
「あ、お帰り……早かったな」
絞り出したセリフが、これだった。
「ニャニャニャーーー! この裏切りモノぉおおおおおお!」
猫娘の瞳孔が凶暴な色を現して、開かれた。
毛を逆立て、尻尾を攻撃的に突き立て、爪を剥き出しにし、俺に飛びかかる。
「や、やめろっ! 誤解だっ!」
良く考えると誤解でも何でもないのだが、咄嗟に飛び出す言葉というのは、実に無責任なものだ。あっという間にレベッカは俺に馬乗りになり、高速で猫パンチを繰り出した。
俺の顔面を拳が何度も強打し、爪が肌をエグり血がほとばしった。
ヤバい、マジで殺される!!!
その時、ガチャガチャと鍵を下手くそに開ける音が、隣の玄関から聞こえた。
きっと乱闘の音が外に漏れていたのだろう、オカンが茶の間の扉を蹴破らん勢いで入って来た。た、助かった!!
「ちょっと、何やってるの!?」
オカンの目の前に転がっているのは、猫娘に往復ビンタを食らい、血塗れになっている息子の姿だ。
オカンは半狂乱で、怖かったはずの獣人に飛びかかった。
「よくもアタシの光一に、傷をつけてくれたわね!!」
レベッカを後ろから羽交い締めにし、耳を引きちぎらんばかりに引っ張る。
「ニャニャニャ! このオバサン誰ニャ、痛いニャ!」
「私は、この子のママよっ!」
「な、ママニャと!?」
「まだ嫁入り前の、息子なのに、何て、こと、してくれたの!」
猫娘のボディに思いっきり、連続パンチを食らわせる。
すげぇ、母は強しだ……なんだけど、おかしい。
オカンよ、俺の設定が色々おかしい!
何だよ嫁入り前の息子って! 意味わかんねぇ!
「俺は、男だーっ!」
必死で叫びながら二人の仲裁に入る。
しかしレベッカからも、さらにオカンからも「邪魔するな!」と、強烈なパンチをカマされてしまった。
あえなく、俺は茶の間の床に吹っ飛ばされる。女の本気の殴り合いを前に、男は無力だ。ならば、この不毛な闘いを止められるのは、フィーリアしかいない。
魔法でも何でも使って、これをやめさせてくれ!
一縷の望みを託して彼女を探した視線の先に、絶望が待っていた。
「すぴぃ~、すぷぅ~」
フィーリアはすぐ寝る子だったが、酔っ払った時もそうらしい。
天使のような寝顔で、スヤスヤと眠っている。
この状況で寝るんじゃねぇポンコツエルフ!
「フィーリア、起きてくれ!」
そう言ってフィーリアに駆け寄った。
だが、これも見事に失策だった。
レベッカの目には、俺が欲望を剥き出しにして、フィーリアを襲おうとしているように見えたらしい。
「ニャニャニャ! この裏切りモノのエロガッパぁあああ!」
オカンを突き放し、レベッカが猛然と俺に襲いかかる。
すると、事情を知らないオカンはそれに対してさらにブチギレた。
「いい加減にしなさいこの化け猫ぉおおお!」
俺を巻き込んだレベッカとオカンの、第二ラウンドが開始される。
くしくもその時、窓の外が白み始めた。そう、朝が来たのだ。
だが、この闘いは当分終わりそうにない。
おっさんを巡る夜明けのキャットファイト……もう地獄絵図だ。
二人の女の間で揉みくちゃにされながら、俺は決心した。
今日は絶対、会社を休んでやる。
上司がキレようが、同僚が嫌味を言おうが、ボーナスの査定を引き下げられようが、知った事か。有給なんて腐るほど残ってるんだ、今使わずいつ使う。
……人生の時間は、自分のためにある。そうだろ?
異世界美少女ハンターは婚活惨敗おっさんの手料理に夢中!? 水谷 耀 @you-mizutani
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