第38話 犯人は俺ではない、俺の右手だ

 ――目が覚めると、石の天井が目に入った。

 さわやかな光が、窓から差し込んでいる。


 小鳥の快いさえずりが目覚ましとなったのだろうか、日本での起床とは比べ物にならない程に、心地が良い。


「ん……ああ、もう朝か……」


 どうやらあのまま、フィーリアのベッドで寝てしまったらしい。

 一徹のデスマーチ如きで、寝落ちするとはな。

 俺も落ちたもんだ。


 そう思いつつ、寝ぼけたまま身体を起こそうと、ベッドに手をついた。


 モチッ……。


 ふいに、右手がモチモチっとしたモノを掴んだ。


 なんだこのモチモチは……? 

 意味が解らなかったが、取り合えず揉む。

 表面はスベスベ、揉むとプリプリした感触も残る。


「ん……ああっん、マスターぁ……ムニャ……ふぅん……」


 モチモチから少女の喘ぎ声が漏れる。


 ちょ、ちょ、ちょ! 

 このシチュエーションって……!?


 咄嗟に右手に目をやると、掴んでいたのはエルフの真っ白ムチムチ太ももだ。


「ひゃあん……ま、ます、たぁ……まだ、そ、そこは……だ、ダメぇっ……!」


 わぁああああー! 

 太腿はイカン、イカンぞ! 

 時と場合によっては乳や尻よりもイカンところではないかっ!


「ご、ごめんっ!」


 だが俺の意思に反して、手は太腿を堪能し続ける。

 止まれぇ、俺の右腕ぇ!


「ああっ……ま、ます……たぁあっ……なら、か、かまいっ……ませんっ……ですぅ」


 構わないんかーーいっ!! 


 ……とはいえだ。

 俺はプロの紳士である。


 紳士が年下相手(厳密には年上だが)に無体なことをする訳にいかん!


 暴走する右手を、強引にフィーリアのマシュマロボディから引き剥がした。

 脂汗をかきながら、土下座をする勢いでフィーリアに謝罪する。


「す、すまん。俺としたことがつい……!」

「……ムニャムニャ……グゥ」


 しかし彼女は俺の懺悔など全く聞いていない。

 むしろまだ寝ている。


「もしかして……寝言!?」


 ったくこの天然エルフが! 

 ヤヤコシイ寝言なんて言うんじゃねえ!


 その瞬間である。


 家の扉が物凄い勢いで、バーンと開かれた。


「おっはよーございますニャー! 今朝は良いお目覚めかニャ!」


 朝からハイテンションで喋り倒しながら、レベッカが入って来る。


「あらあら、まだ寝てたニャか~! お寝坊さんニャね~。ありゃ、この感じは!」


 レベッカが恥ずかしそうに目を覆った。

 ナニやってんだこの猫。


「この感じって、何のことだよ?」

「もしかしてお二人さん、励んでらっしゃったのかニャ!?」

「は? は、励む?」

 

 改めて今の状況を確認してみた。

 二人で一つのベッド、服は寝乱れ、フィーリアは俺の右手のイタズラで太腿が丸見え、おまけに身体は汗ばんで紅潮している。


 ど、どう考えてもアウトじゃねえかー!!


 レベッカは顔を真っ赤にしながら、俺達をからかった。


「もう、そういうことなら言っといて欲しいニャ~。良い感じのところを、お邪魔いたしましたニャ~」


 レベッカはいそいそと外に出ようとした。

 俺は急いで後を追いかける。


「ちょ、誤解だって誤解!」

「ふわぁ~おはようございますですぅ。あらマスターぁ、起きてらっしゃったのですかぁ。昨日はありがとうございましたですぅ、フィー楽チンさせてもらいましたですぅ」


「昨日は楽チンって……光一、ユーも隅に置けないオトコニャね~」

「フィーリア! ややこしいこと言うんじゃねえ!」


「ありゃま。フィー、なんて格好をしてるんでしょう!? お恥ずかしいですぅ!」

「じゃ、後はお二人でニャ……」

「だから誤解だって言ってんだろぉ!」


 そこから状況説明は、かなりの時間を要した。

 その甲斐あって、レベッカは最終的には納得したようだ。

 俺とフィーリアは身支度もそこそこに、朝の紅茶を淹れてテーブルにつく。

 

 温かなお茶を一口すするや否や、レベッカが作戦会議を始めた。

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