第28話 両手にオッパィ……じゃなくて、両手に花

 置いてけぼりを食らわされた俺達は、カザドの言動を思い返した。


「さっき言ってた、合格ってどういうことだ?」

「マスターを認めてくださったのではないですかぁ?」


「まさか、ハンマーかわしただけじゃん」

「ドワーフは戦闘でもかなり強いニャ。その攻撃を読むなんて、タダ者じゃないニャよ」

 

 猫娘が心底驚いた表情で、俺を見つめる。


「タダ者じゃないだって? ただのおっさんだぞ?」

「とにかくついて行きましょうですぅ」

 

 フィーリアが左腕に絡みついて促す。

 真っ白なオッパイもオマケにすり付いてくる。


 おいおい、またオッパイが当たってるじゃねえか……。

 だが俺は紳士だ。

 

 もうイチイチ、「オッパイ当たってるぞ」などということは言わない。

 女性にそんなことを言うなんて、慎みがないだろ?


「ドワーフの店の奥なんて入った事ないニャ……」

 

 猫娘も怖がって俺の右腕にくっつく。

 膨らみかけの若々しいオッパイの感触が伝わった。

 

 猫娘、お前もか! 

 

 脳は、俺の意に反して、皮膚の触覚に全神経を集中させようとする。


 マシュマロのように弾力がありつつも、ふにゅっとした肉感をまとわりつかせるケシカランおっぱいだ。

 ああ……いい。


 貧乳はこれが良いのだ。

 量より質を地で行く希少価値。

 無限の成長を秘めた女のつぼみだ……妄想の夢が溢れてくる。

 

 諸君、念を押すがこれは俺の意思でやっているのではない。

 脳が勝手に猫娘のオッパイを味わっているだけだ。

 え? 紳士ならオッパイから離れろって?


 こんないたいけな少女に、おっさんが「オッパイ当たってるぞ」なんて言えるかね? 


 恥ずかしさでお嫁に行けなくなっちまうぞ。


 エロスのプロでなければ今頃鼻血出して卒倒するか、両手でオッパイを揉みしだいていたところだ。全く、紳士はツライ。


 ――そんなこんなで、俺は左腕にエルフ、右腕に猫娘を侍らせたまま、ドワーフの後に続いた。

 

 鍛冶屋の洞穴を進んで行くと、大きな金属の扉が現れ出る。

 カザドはその前で、俺達の到着を待っていた。


 扉には小さく頑丈な子窓がついていて、そこから真っ赤な光が漏れだしている。中で作業しているのだろう、扉越しにうっすらと熱気を感じた。


 カザドは無言のまま、重重しい扉の取っ手に手をかける。

 カザドの小さな唸り声に、ズズズッと鈍い音が加わると、金庫扉のようなソレはゆっくりと動き、部屋が開かれた。


 中は表の作業場とは打って変わって、家庭用の刃物を作るとは思えないような、本格かつ専門的な工房である。


 道具の一つ一つが独特の形状をしており、それぞれに色彩豊かな部品が使われていた。たぶん、モンスターの素材を使用しているのだろう。


 そして工房の奥には店先にあった炉よりも更に大きい炉が、ドンと設けられていた。中では真っ赤な熔岩が絶え間なく循環している。物凄い熱波だ。


 灼熱の光を放つ炉の前に、誰かが座って作業をしていた。

 分厚い溶接面と髪を覆うガードで容姿は見えない。


 だが等身からして、彼もドワーフだろう。


 カザドが一人、ノシノシと入って行って、その人物の近くで跪き何かを話しこむ。しばらくすると、ゆっくりとこちらを向いて促した。


「……入ってこい」

「入ってこいと、言われましても……」


 正直、この部屋に入るのは気が進まない。 

 部屋の入り口でも灼熱地獄なのだ。


 これ以上、どう進めというのか。


「無理じゃグローイン、彼らはドワーフではない」

 

 溶接面の下から、くぐもった低い声が漏れた。威厳のある口調だ。


「失礼いたしました、親方」

 

 いかついカザドが腰を低くしている。

 いや、そういえばこのドワーフ、さっき「グローイン」って呼ばれてたな。


 コイツがカザドじゃないのか……?


「私が行こう」

 

 溶接面のドワーフが、作業台から立ち上がってこちらに近づいてきた。

 現実世界では見たことも無いような、不気味なマスクだ。


 目の部分はゴーグルのようになっているが、真っ黒なガラスを嵌めてあり、目元は見えない。おまけに頭から背中にかけて、重厚なうろこ状の金属防布をすっぽり被っている。まるで動く小山だ。


「……破損した装備を直して欲しいとな?」

 

 溶接面ドワーフが話しかけてきた。

 分厚いマスクに遮られた声はかなり聞きとりづらいが、グローインの呟き声よりはマシだ。


「はい。カザドさんに頼むのがいいと聞きました」

「カザドか……どのカザドじゃ?」


「へ?」

「ウチは一族経営じゃからの、皆カザドじゃ」

 

 そう来たか……、虎男め、ややこしい言い方しやがって。

 ならば、どのカザドに頼めばいいというのだ。


「い、一番得意な人にお願いしたいんですが……」

「そうか、ならワシじゃな」

 

 溶接面ドワーフがマスクの下でふがふがと笑う。


「じゃがな、ワシは気に入った相手にしか槌を振るわんぞ」


 噂に違わず、頑固者のようだ。

 だがこういう相手には、ハッタリレベルの強気で返す方がいい。


 いつもは冴えない俺の勘がそうささやいている。


「気に入って貰えるはずです、俺は」

「ガハハハ! 良かろう、やってみろ。グローイン、応接間の準備をしておけ」


 さぁ、ここからが勝負だ。

 会社の営業でもこういうヤヤコシイ客はよくある案件だ。


 このひと癖もふた癖もありそうな頑固ジジイを、どう説き伏せるか……。


 そう身構える俺の前で、ドワーフがおもむろに、溶接面と防布を外した。


「ああ、熱い! やはり氷草(こおりそう)を噛んでいてもしんどいな!」


 中から出てきたのは、ピンクのツインテールをウサギのように生やした、幼女だ。しかも鍛冶屋という職業からは想像もつかない、可憐な顔立ちの。


「お、女の子!?」


 何だよこの幼女、か……可愛い!


 雪のように光る小さな葉をガムのように噛みながら、幼女は汗をかいた肌に張り付く髪を掻き分ける。そして腰に片手をあて、先ほどと変わらない威厳のある口調でほがらかに笑った。


「ようこそハンター。ワシはアナ・カザド。ここの鍛冶屋の親方だ」

 

 こんな可愛い幼女なら、殴り殺されても構わない。

 そう思える俺はやはり変態か。

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