新装開店・回る王様ゲーム

ちびまるフォイ

王様の命令は店内において絶対

『王様すし』


近所に大きな回転寿司ができたので入ってみることに。

店内にはぐるぐると回るコンベアの上に皿が回っていた。


皿だけだった。


「いらっしゃいませ。当店のご利用ははじめてですか?」


「え? あ、はい。というか寿司は? 皿だけ回っていますけど」


「当店では食事はできません」

「なんで!?」


「その代わり、お皿の裏に書いている数字をもとに

 お客様同士で王様ゲームを楽しんでいただけます」


説明しているさなかに、店内の高い位置にある大きな電光掲示板に番号が表示された。


【 13番 は 99番 にキスをする 】

【 47番 は 1番  の連帯保証人になる】


「ちょっ……これいいんですか!?」

「王様の命令は絶対ですから」


店員は当然といった風情で進める。


「お皿をレーンに戻したりするのは禁止されています。

 あと、お皿を清算せずに店外に出ることはできません」


「わ、わかりました……」


「王様すしをお楽しみください」


テーブル席に案内されたが、実際になにをどうするのかわからない。

とりあえず、レーンに流れてくる皿を1枚手に取った。


お皿をひっくり返すと底には「55番」の文字が書かれている。


席にはそれぞれお皿を投入する「片付け口」があり、

そこに皿を入れることで支払う金額が決まる。


55番が気に入らなければお皿を投入し、別の皿を取ればいい。

1枚分の皿の代金は追加されるが。


「なんかドキドキするなぁ」


電光掲示板を見上げていると、ちょうど俺の数字「55番」が光った。


「きた!!」


ついで、王様の命令が下った。



【 55番 は 93番 の支払いを肩代わりする 】



「そんなのありかよ!?」


慌てて皿を投入しようにも、投入口は王様命令時にはふさがる。

しょうがなく93番の皿を持つ席のところへ向かった。


「おーー、お前が55番か。運が悪かったな」


「あなたは運よく93番の皿を持っていてよかったですね……」


「いや、俺が王様だし」


「はい!?」


男の席にいは2枚の皿があった。93番と「王様」と書かれた皿。


「あんた、それじゃ自分の支払いをさせるために……!」


「いやぁ、最初に引いたのが王様の皿だったからさぁ。

 次にもう1枚の皿を手に取ってから命令したわけよ。がはは」


「この世界には悪人しかいねぇのか!」


結局、男の王様すし利用料金をおごるはめになった。泣きそう。

自分のテーブルに戻ってからは、レーンについているタッチパネルが目についた。


「こんなのあるんだ」



<< 王様すしパネルのご利用について >>


・パネルでお好きな空き番号の皿が到着します


・パネルで届いたお皿には「王様」皿はありません

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


自分の好きな数字を選べるといっても、

王様の命令がどの番号に飛ぶかわからないから意味ないような気もする。


このパネルでは数字のジンクスとかゲン担ぎとかを気にする人が使うのだろう。


「……いや、待てよ!?」


命令する権利がある「王様」の皿は、必ずレーンから流れてくる。

そして、このパネルでは空き皿を注文ができる。


ということは、パネルの皿をすべて注文すれば

レーンに流れる皿は王様皿になる可能性が高いのでは?


>オペレーション:買占め計画、始動


パネルでありとあらゆる皿を連打して自分のテーブルに届かせる。

待ち時間も王様皿が当たるように片っ端からレーンの皿を取っていく。


他の人もこの異常事態に気づいたのか、

王様皿の確保のために慌てて皿を取り始めた。


電光掲示板には王様の命令が何個か連続することもあった。

ということは、店内の王様皿は1枚だけじゃない。


「来い!! 王様皿アァァァー!!!」


願いを込めて引いた皿の裏には文字が書かれていた。



>王様



「来た来た来たーー!! 俺が王様だ!!」


ついに引き当てた王様の権利に思わず立ち上がった。


テーブルに残していた皿は番号をメモし、2枚だけ残してすべて投入する。

残した1枚は王様の皿。もう1枚は2番の皿。


「ふふふ、どんな命令をしてくれようかな」


想像しただけでよだれが止まらない。


メモを見ながら自分の皿番号以外の番号を把握する。


王様の命令は――



【 74番 は 1番 に すべての財産を渡し一生奴隷となる 】


「わははは!! やったぞ! これで完璧だ!!」


電光掲示板に命令が下ると全員が凍り付いた。


ここでの清算をおごらせるなんてチャチな注文はしない。

財産をすべて受け取り、奴隷として一生奴隷としてこき使う。


ひと1人を自由に使えるだけでも、今後一生働かなくても済む。

俺の代わりに奴隷が働いてくれるのだから。


「さぁ! 王様の命令は絶対だ!! 74番出てこい!!」


すると、74番は震えながら立ち上がった。

しかも驚くほどの美人でますます下卑た笑いがこみ上げる。


「ククク、奴隷にするのはやめだ。俺の愛人にしてやろう」


皿を持った女はおびえながらこちらに向かってきた。

そのとき、電光掲示板に別の王様命令が下った。




【 1番 は 74番 とお皿を交換する 】


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