Episode.7 契約


「お茶です。」


「あぁ。」


まったくもってのデジャヴ。

座る場所も麦茶も私の喋る言葉も青年の返答もまるであの時に戻ったかのよう。

しかし、私は学習した、青年はあまり口数の多い方じゃない。

私からまた話を進めていく。


「二度も助けてくれてありがとう。本当に今回はダメかと思った。」


「別に、アンタに死なれちゃ俺も困るんだよ。アンタが無事でよかった。」


青年は顔色一つ変えない、ただ目を伏せてぽつりとそう言う。「だがな、」青年はそう前置きをして今度はしっかり私の目を見ていった。

黄色の瞳が久しいと感じる。


「今回も間に合ったからよかったんだ。リマと言ったか、アイツはかなり強かった。アイツじゃなかったとしても、次いつまた襲われるかわかりはしない。どうすんだ、アンタ。」


どうする、そう聞かれて、私はうつむき考え込む。

私は変なことに巻き込まれるのはまっぴらだ。しかし、今回の一件で証明された。私はもうすでに巻き込まれている。この試験に参加するしない関わらず彼もこの前言っていた通り私は命を狙われ続ける。それならば、私は彼と組んだ方が安全なんじゃないだろうか。

私が悩んでいると青年はさらに話を続ける。


「アンタ、前にどうして私がいいの、って聞いてきたよな。あれから考えたんだが、俺たちは相性がいいんだ。力とか能力とかほかのことに関しても。それは、バックの人間が本能的に持っているもので、だから俺はアンタを見つけた。だから俺はアンタがいい。」


まとまらない言葉をぽつりぽつりと、私を説得しようとしているのか、それとも前の言葉に弁解をしているのか。

彼と少しの間いてわかった彼のこと。それは、彼は言葉選びは悪いけどとてもいい人だということ。


「私ね、とても汚い人間なの。だから、自分の命が何より大事。ねぇ、私のこと守ってくれる?」


こんなこと言って面倒くさいと思われちゃうかな。

でも、私は一歩踏み出す勇気が欲しい、命を懸けることだから尚更。

恐る恐る彼の顔を見ると彼はとても真剣で真摯的な顔をしていた。


「あぁ。アンタを守ると誓おう。」


ハッキリと放たれた言葉。

それはまるで騎士のようで、こんなカッコイイ人にこんなこと言ってもらって、頬が緩まないわけがない。

だらしない顔を彼に見られる前に、手で覆い隠すと、彼は何があったのか不思議そうにこちらを見て、確認する。


「俺と契約してくれるか。」


彼の不安そうな声。

私は、まだ手が外せる状態ではなかったから彼にしっかり伝わるように強くうなずいた。手の隙間から見えた彼がどこかうれしそうにしていたのは私の気のせいじゃないといいと思う。


それからは契約の手順へと移った。


「それで、どうやるの?」


私が聞くと青年は、簡単なことだ、と答えて席を立ち、私の前に来るとひざまずいて私の右手をとった。

彼の左手はほんのり冷たい、それでも、ぬくもりがないわけじゃなかった。彼が人間であることに、生きていることに改めて実感っを覚える。

だって、あんな常識はずれなことしたんだもん、和服に鎌って死神っぽいし、彼が生きていないと言われてもわたしは納得いく、かえって、そっちの方が納得がいってしまうのではないだろうか。

彼は私の右手を軽く握る。

痛くはない、むしろ包み込んでくれているような。年の近い男の子にこんなことされたの初めてで、少し鼓動が早くなるのが感じる。そんなこと知らない彼は何も気にせず次へと続けた。


「アンタの名前を俺に教えてくれ。」


そういえば、私たちはお互いの名前を知らなかった。

これから一緒に試験を乗り越えていくんだ、さすがに知らないままじゃまずい。


「私の名前はタマグルイ ミコト。」


父も母も知らない私に、二人が最初で最後にくれたもの、それが私の名前だった。だから気に入っている、この名前は大切にしたい。

青年は私の名前を一度繰り返すと、良い名前だな、フッと笑って見せた。

彼の笑顔初めて見た。

目を細めて笑うその姿はかわいいとか、かっこいいとかいうより爽やかで、また一ついい人だなって思った。

でも、青年はそんなに笑う人じゃないのだろうすぐに笑顔を解くとまたあの真顔に戻ってしまった。

彼は「次に。」と前置きをし話を戻した。

名前を聞くのも契約の段階なのだろうか。

彼は軽く頭を振って自分の目にかかった栗色でサラサラの少し癖のある髪を払うと、私をまっすぐ見た。

近くで見るとやはり黄色の瞳は美しい。整った顔立ちをより一層華やかにしてくれている気がする。

レモネード、ビー玉、そういった美しい透明感のある瞳。思わず吸い込まれちゃいそう。


「俺に名前を付けてくれ。」


「へ?」


突然そんなこと言いだしてなんなんだろう、彼にだって自分の名前はあるのだろうに、私は先ほども言ったが自分の名前を大切にしている、だから、彼にも自分の名前を大切にしてほしいと思う。

そんなことを思っていると彼は付け加えて説明をした。


「俺にだって名前ぐらいはある。だけど、それは裏側バックでの名前だ。表側ファイスでの名前ではない。契約をする際に、裏側バックの人間は表側ファイスの人間から名前をもらうのがルールなんだ。」


なんだかよくわからないルールだな。

そんなこと言われても、ちょっとやそっとじゃ決められない。

どうせ決めるのであれば、私の名前のように彼にも気に入ってもらって、大切にしてもらいたい。

どうやら、この場の空気的に今すぐ決めないといけないらしく、考えているとある言葉がふと頭をよぎった。

彼の瞳にとてもよく似ている色、これを名前になるように文字って。


「カリヤ。」


その言葉は自然と私の口からこぼれた。

青年は少し驚いた顔で私を見た後、目を細めニヤッと笑い、


「じゃあ、俺は今日からカリヤだ。よろしくな、相棒。」


そう言って、私の右手を持ち上げ、右手に彼の、カリヤの唇が触れた。

すると、私の右手とカリヤの左手がまばゆい光を放ち始めた、それと共に突風が吹き荒れて、私たちの手を中心に竜巻のようなものを作り上げる。

なんなのこの力。

あまりの眩しさと突風で思わず目を閉じる。

しばらく、突風と光はやまなかったが、だんだんと弱くなり始め、いつしかやんだ。

私がそっと目を開けると、まず最初に彼と目が合う、そんのままゆっくり視線を下げると、私の手の甲にはあの時見たリマちゃんと同じように紋様が刻み込まれ、それが煌々と輝いていた。

でも、リマちゃんのとは違う、違う柄、そして、カリヤの瞳と同じ刈安色の刻印。

私がカリヤの手からその刻印は光を沈めた。

刻印を撫でても痛くない、ただ不思議とそこにある。光を沈めた刻印はだんだんと色を薄くし、しまいには、痣のような不自然じゃないくらいにまで薄まった。

カリヤの方を見ると、彼も私と同様左手に全く同じ刻印がされていて、彼の方の刻印は薄まる気配がなかった。

これで、一段落着いたのだろうか。

呆けに取られていると、急におなかが減ってきた。

時計を見ると七時半。

いつもなら、晩御飯を食べている時間だ。慌ててキッチンへ移りエプロンを身に着ける、そこで思い出してひょっこりキッチンから顔を出しカリヤに聞いた。


「ねぇ、今から晩御飯作るけど食べる?」


「あぁ。いただこう。」


そう答えて彼はもう氷が解けてぬるくなってしまった麦茶を一息で飲んだ。

まぁ、そりゃ食べるか。裏側バックの人と言っても人間は人間だ。

ん、待てよ。

そこで私は嫌なことを思い出した。

私これからの生活どうなるんだ!?

まさか、ここまで来て今まで通りの生活が送れるわけなんてないだろう。


「はぁ。」


これからのことを考えて、私は一つ大きなため息を漏らした。

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ニ魂一体 なわ @kokesyan

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