第13話  不老不死探偵の助手 其の参

 不老不死探偵の助手、児屋根春日ことおれは、出鼻から叫んでしまった。


「ええっ、なんですって⁉ 帝国ホテルでの舞踏会へ一緒に行かないか、ですって⁉」

「声でけーなおい、うるせーよ。そんなに驚くことじゃねーだろ」


 トキジクさんは面倒臭そうに言った。


「驚きますよ、そりゃ。だいたいおれ、踊りなんて出来ないですよ? せいぜい盆踊りが関の山ですけど!」


「何で自慢気なんだよ。ていうか、そんなこと心配してたのか。別におまえに期待しちゃいねーし、舞踏会っていってもまぁ晩餐会、音楽付きの立食パーティーみたいなもんだ」


「ぜんぜん意味が分かりません! “音楽付きのりっしょくパーティー”っていったいなんですか⁉ まさかフシダラなやつなんじゃないんですか? 聞いたことありませんよ。またそうやっておれの無知を馬鹿にしてほくそ笑んでるんでしょ⁉ 悔しい、悔し過ぎる‼」


「また始まった。お前のそういう自虐的被害者妄想、いい加減直せよ」

「どーせおれは自虐的被害者妄想癖のどうしようもない奴ですよ!」

 おれは半べそになりながら二階へ上がろうとした。

「おい、結局行くのか行かないのか?」

「行きますよ! 仕方ないでしょ⁉」

「それじゃ土曜の夜だぞ」

 返事もせず、おれは逃げるように自室に入り、ドアを強く閉め、ベッドに突っ伏した。


 ええええええ⁉

 お師匠とダンスパーティーだって⁉

 嬉し過ぎて昇天しそうだ‼

 嘘、嘘、嘘、どうしよう。二人でパーティーだなんて、これってもうお付き合い始めませんか? 的な感じなんじゃないの? 西洋風にいえばデートなんじゃないの?


 しかもそんじょそこらの庶民には手の届かない、もはや神仙境、あるいは天上界と謳われる帝国ホテルですよ⁉ もうおれ幸せ過ぎて解脱するんじゃない? そろそろ悟り啓くのか? ニルヴァーナの境地?

 とうとうおれ、仙人になるんじゃない? お師匠と二人で不死身のカップル誕生⁉

 もしかしてもしかしてお似合いなんじゃない? それ、二人お似合いなんじゃない?

 うわっ、うわっ、どうしよう・・・・・。


 あ。

 ていうか、パーティーに何着て行こう。

 おれ、正装なんて持ってないや。

 それまでベッドの上でもみくちゃに悶えていたおれは、一気に絶望の淵へ突き落された。

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