第6話  臭いモノにフタをした

「どうすんだよ、おい!」


 前から迫りくる魚もどきの臭ぇ野郎。一回ぶん殴った方がいいのか? しかしそれでも助けを求めているらしい奴を無下にも出来ない。どうしたものか。


「お前がなんとかしろ、強欲探偵!」

 背後で犬書生が叫びたてる。

「ふざけんな! だいたいお前らだって河童を調べに来たんだろ⁉」

「そうだよ、俺たちは河童を噂を聞いてきたんだ! こいつはもう河童とは言えんだろう!」

「あ、そういうこと言うの? お前ら、こんな可哀そうな奴を見捨てんの?」

「あ、いや、俺は臭いものはちょっと・・・鼻が利き過ぎるから・・・」

「あ、きったねぇーの! こういう時だけ犬主張して、糞みたいな言い訳すんな!」

「犬八、子供みたいな言い訳はよせ」

「しかし先生! 俺は本当に鼻が・・・」


 たくしゃーねーなー。ちょいと面倒だが、ここは俺様が一肌脱ぐか、と思案している間に、何か別の気配を感じた。

 ん? 不運な通行人か? いや、違う。これは・・・。

 ふと魚人間の背後にあるガス灯の下に人影が現れた。

 体格の良い、軍服らしき服装の人間が、剣を抜いて・・・?

 次の瞬間には尋常ではない速さで走り寄り、魚もどきを背後から袈裟切りに一刀両断した。


「うわっ」


 眼鏡君が思わず驚愕の声を上げた。

 魚もどきは上半身を斜め切りされ、ぐしゃりと地面に崩れ落ちた。


『なんだ、ちょっと退屈しのぎに志願してみたものの、まったく手応えがない』軍服姿の背の高い男は、サーベルを布で拭った。『しかし聞いていた以上にひどい臭いだな』

「が、外国の人?」

 眼鏡坊ちゃんが呟いた。

「そうだな、言葉と軍服からするとドイツ人だ」


 俺たちの声を聞いて、今初めて存在に気付いたように、ドイツ人の男はこちらに目をやった。

『なんだ、お猿さんたちもいたのか。君たちはこの半魚人は見たけど、私のことは見ていない。と言っても言葉がわからないかな?』


 軍服男はサーベルを拭った布を捨てた。


『面倒だから、ついでに切ってしまおうか』

 そう言って笑みを浮かべた。

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