Ⅹ     騎士の仲間

「あらまあお兄様。たとえどんな理由があろうとも、女の子を泣かせちゃいけませんわ。」

 やや高く愛らしい、どこか面白がっているような声。ノエルは顔を上げてそちらを振り向いた。

 重そうな扉を押し開けて部屋に入ってきたのは、オニキスのそれと似た騎士装束に身を包んだ小柄な少女だった。豊かな髪は少年のように肩の辺りで切り揃えられ、悪戯っ子のように煌めくお転婆そうな瞳。彼女はひょいとソファを飛び越えると、オニキスの前に仁王立ちになってにっこりと言った。

「それでなくても女の子泣かせなんだもの、お兄様ってば。たまには、妹として責任を持ってお仕置きして差し上げなくてはね?」

 そして、

「ガーネット。お止めよ、オニキスのお客人の前で。」

 彼女に続いて、もう一人の騎士が入って来た。苦笑しつつたしなめる彼に、ガーネットと呼ばれた少女はちょっと不満気に頬を膨らませてみせた。男物と変わらない仕立ての騎士装束を凛々しく着こなしているが、整った顔立ちに黒目がちな瞳は年相応の少女らしく、子供のような仕種が可愛らしい。

「あら、本当のことを言ったまでよ。お客人を泣かせるなんてもっととんでもないわ。」

「オニキスが泣かせた訳じゃないでしょう。きっと理由あっての事だよ。」

「イリスはいつもお兄様の肩を持つのね。そんなふうに優しいと、いつかイリスも泣かされるわよ。」

「ガーネット……。何を考えているのか知らないけど、変な誤解を受けそうだからやめてくれ。」

 イリスと呼ばれた騎士は困ったように笑う。澄んだ瞳がとても優しい。同じような明るい色合いの髪が、色白な肌に合っていた。顔立ちもほっそりした体のラインも声もやや中性的だが、形よい太めの眉が意志の強そうな様子を表して、男らしく見せている。

 オニキスがそんな二人のやり取りに口を挟んだ。

「やめないか二人とも、ノエル様の前で。申し訳ございません、ノエル様。ご紹介いたしましょう。こちら、我が妹のガーネット、そして友人のイリスでございます。」

 その言葉に二人は、ポカンとしたままのノエルに恭しく頭を下げた。

「失礼致しました、ノエルお嬢様。女騎士ガーネットと申します。年も近く同じ女ということで、お嬢様の一番近くでお守りすることになるかと思います。」

「オニキス・ガーネット兄妹とともにお嬢様をお守り致します、イリスと申す者でございます。どうぞお見知り置きくださいませ。」

 突然のことに、ノエルは目を白黒させて口をぱくぱくさせてしまった。反応がないことに戸惑った二人は顔を上げ、ガーネットは思わず笑い出した。

「まあ、驚かせてしまいましたでしょうか。申し訳ないことをいたしましたわ。ノエル様がすべてをお知りになり、もっと落ち着かれてからご挨拶に伺うべきでしたわね。」

「いや……えっと、その……」

 かなり混乱した様子のノエル。ぱっとオニキスの顔を見、小声で確認した。

「この二人も、俺のことや俺の家族のこと知っているのか?」

「ええ、もちろん。同じ主に仕える仲間でございますゆえ。」

 その主とは一体どんな人物なのか……、尋ねようと口を開く。が、オニキスに遮られてしまった。

「ノエルお嬢様。先程から申し上げておりますでしょう、俺などとおっしゃるのはお止め下さい。言葉遣いもお直しいただかなくては。」

 なんだか話を逸らされた気がする。ガーネットも兄の話に乗った。

「それなら私がお相手致しますわ。こういうのは、カタチから入るのも気持ちが乗りやすくていいんですよ。さあ、こちらです、おいで下さいませ。」

 楽しそうに微笑んで、ノエルの手を優しく包むように握る。ノエルはその笑顔に惹かれるように立ち上がり、素直について歩き出した。オニキスとイリスが、そんな二人を微笑ましく見送る。

「……さてと。」

 少女たちがドアの向こうへ消えると、オニキスはおもむろに立ち上がった。

「事が動き出したみたいだね、オニキス。これからのもとへ?」

「ああ、報告してくる。イリス、留守番を頼まれてくれるかい?」

「もちろん。」

 ぱたんとドアが閉まる。その瞬間、イリスはふと不思議に淋しげな表情を見せた。

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