ⅩⅠ    妹の想い

 穏やかな昼下がり、屋敷の庭が見渡せる明るいテラス。陽射しの中に小さな丸テーブルが置かれている。花の溢れた庭を背景にこのテラスに佇む、ドレスをまとった令嬢の姿は、まるで一枚の絵画のようだった。また彼女自身この場所が、自分の名と同じ赤い薔薇が目の前に咲き誇るこのテラスがとても好きだった。ただし、

(アレスお兄様……。)

 彼女の大好きな兄と一緒なら、もっと輝いて素敵な場所に思うのに。

 ローズは小さくため息をついて、持っていたカップを置いた。カチャンと音を立てる。

(お兄様ってば、今日こそ一緒にお茶しましょうってお約束したのに。なかなかお帰りにならないんだもの。)

 彼女の前の空席には、空のカップがちゃんと置いてある。ティポットの中身も、並べられた焼き菓子も、きっちり半分ずつ残してあった。それでも、香りの誘惑と空腹に負けて待ちきれなくなってしまった自分が恨めしい。これでは待っていた意味がなくなってしまった。

 不機嫌な顔のまま、何気なく兄の部屋の窓に目を向ける。

「あら?」

 窓の所で何かが動いた……いや、カーテンが揺れたのだ。窓は開いていないのだから、風である筈がない。ローズは顔を輝かせて立ち上がり、弾む足取りで廊下を走り出した。

 兄の部屋の前に重々しく立ちはだかる扉を小さくノックする。

「誰だ?」

 すぐに応えがあった。大好きな兄の声。

「お兄様? 帰っていらっしゃいますの?」

「ローズか。お入り。」

 すぐさま扉を開けた。灯りも点さず薄暗い部屋、カーテンの閉まった窓際にシルエットが見えて、ローズは子犬のように彼に駆け寄る。

「お帰りなら声をかけてくだされば良かったのに。あたし、アレスお兄様と一緒にお茶しようと思ってずっと待っていましたのよ。いつお帰りになったの?」

「そうだな、悪かった。」

 ふとローズは、そう言って頭を撫でてくれる兄の表情が冴えないのに気が付いた。

「ねえ、お兄様、何かありました?」

「いいや。何故だ?」

「ご機嫌がよろしくないようだから。」

 そう言ったローズの脳裏に、先刻出会った裏路地の子供の顔が浮かんだ。

「もしかして、あのノエルとかいう子のこと?」

 ローズの言葉にアレスは驚いて聞き返す。

「どうしてそう思う?」

「だってお兄様、その用で今までお戻りになれなかったのでしょう? あたしが帰った後、お兄様があの子をどうなさるおつもりだったのか知らないけれど……失敗、なさったの?」

 ちょっと心配して兄の顔を覗き込む。アレスは苦々しく答えた。

「ああ、大失敗さ。しかしよく分かったね。勘の鋭い子だ。」

「大好きなお兄様のことですもの、ちゃんと分かりますわ。でも……」

 急に不安になってうつむいた。胸が締め付けられる。

「もしかして、ローズの所為?」

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