片思いの終わるとき

彼我差日夜

Before Last 5 Minutes,Future Time

 夕方。放課後だった。

 教室に私だけが一人立っている。

 授業は終わっていて、部活も今日はない。

 だっていうのにどうして帰らずにいるかっていうと、私がここに呼び出した人を待っているから。

 座るほどの時間じゃない、指定した時間まではあと五分。彼は几帳面で真面目な人だから、きっと遅れてなんて来ない。


 そういうところが私は好きなのだ。

 そう、私は恋をしている、けれど今はまだ片思い、今日ここで思いを伝えて必ず両想いになってみせる。


 彼と出会ってから一年という時間があった、クラスが同じになって席が近くてよく話すようになって。私なんてクラスで上から数えた方が早いくらい地味だから、ちょっとでも彼の意識に残るように毎日話しかけた。遅刻でもして同じ教室で受けられる授業を逃したりなんて決してしなかった。二時間体育の日なんかにはその時間の分帰りを一緒にして、彼と話した。


 でも、いっつも臆病な私にできるのはそういう「必要最低限の時間」を一緒に過ごすことだった。学校以外での彼の行動なんてとても把握しきれなかったし、夏休みとか長期の休みで旅行にでも出て旅先で運命的な出会いでもされてたら到底かなわない。そもそも一緒にいた時間だって彼に何かアピールが出来ていたかは怪しい。


 どうしよ、今までの頑張りを思い出して、自分を励ますつもりだったのにむしろ不安になってきた……。


 大丈夫、アピールが出来ていなかったとしても、一年間これだけ毎日接してたんだから、少なくとも「嫌いじゃない」はず。今日はそれをちょっとの勇気で「好き」に変えるだけ。


 ただ、それだけなんだから。


 その時、扉が開いた。時計を見ると、指定時間だ。


 彼が入ってくる。

「呼び出しなんて、珍しいな」

 なんでもないような顔をしているけど、心なしか緊張している様子。私のが伝わっちゃってるのかもしれない。

「うん、あのね、あ、まず来てくれてありがとう……。その、ええと」

 ああ、もうじれったい、ここまで待ったんだ、すぐ、言ってしまえ……!

「す……」

「   」


 先回りされた彼の言葉によって私の片思いは終わった。

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片思いの終わるとき 彼我差日夜 @kayoru_higasa

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