第23話 いつものお弁当

 何週間経っただろう、パート先もちょっとずつ慣れてきて、顔なじみと言うのだろうけれど、私は名札で覚えているメンバーが出来て来た。

 店長が高田さん、大きな身体の若い女性は小野さん、茶髪の青年が原田さんで、あとギャルっぽい人が阿部さんだったかしら、ちょっとずつでも覚えていかないと。とはいえ仕事中なので呆けているわけにもいかない、お客さん。棚で何かを探している人がいるけれどこれかしら?

 あっ、来た。

「あの、消えそうな♪とか言うコブクロだったっけ……」

「はい、こちらになります」

コブクロの棚から『蕾』の収録されたものを取り出して渡す。

 CDの棚を漁っていた男性はイヤホンを戻し、商品を持って、また違う音楽を物色し出した。Tシャツには『I EAT MUSIC』もしかして彼も音楽を食べるのかしら?

「何か?」

あぁ、私の視線がばれてしまった、思わず彼の顔をまじまじと見る、くるくるにワックスを付けた黒髪の似合う男性だった。お前は涼やかなイケメンに弱いんだから気をつけろと、そういえば以前健一さんに言われた気がする……。

 そんなことは、って言っても健一さんはいや、ぜったいそうだね。俺もそうだもん。と言い張って聞かなかった。

「いえ」

恥ずかしい、なんであのおばさん見ているんだろうとか思われただろうかしら。そう、あの年頃からはわたしはおばさんに見えるだろう、それなのに健一さんは『働くのはいいけれど、若い男に気をつけろよ』と釘を刺して来た、私なんて、誰が見向きすると言うんだろう?

 もうお昼だ。

 今日は揚げ物を煮てきんぴらと、昆布で似たお豆をご飯に添えて来たんだった。と言っても、煮物に使った昆布の再利用だけど。

「あ、ちわっす大平さん、今日は何っすか?」

小野さんは相変わらず大きな声で大きなお弁当を見せびらかしている。

「あら小野さん、今日も大きなお弁当ね、自分で作ったの?」

小野さんは弁当の包みを開いて豪放に言い放った。

「今日はみんな焼きそば弁当です!学生だから、量は大盛り二玉、鍋一つでできるものを」

焼きそばはとても美味しそうで、丸く切り口が見えるのは魚肉ソーセージだろう。

「あら、あなたいい奥さんになれるわよ」

私はまったくのおだて無しに屈託なく言った。

「そんな、相手いないっすよ」

「あらそうかしら?」

頭をかいて、照れる小野さんの大きな身体を見る、体格に似合う大きな胸で、細かいことは気にしないように見える。こんなに包容力ありそうな人はきっと、いい奥さんになりそうな気がする。

「今日もいただいていいですか」

「もちろんよ」

小野さんは私の正面に座った。

「じゃ、遠慮なく」

言うやいなや豆に箸をつけて、美味しそうに満面の笑顔。やっぱりこんな風に私の料理を食べてくれる人がいることは嬉しい。

「あ、お疲れ様」

原田さんも休憩室に来た。

「今日も一緒ですね」

原田さんのお弁当はコンビニのサンドイッチにインスタントスープ。

「じゃあ、いただきましょう」

小野さんが仕切り直して、私は左に座った原田さんを見るとはなしに見ながら、小野さんにお弁当のおかずをあげた。

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