儚い想い

こんな複雑な家庭環境の中にいた私でも恋する乙女心はあった。


遡ること3ヶ月前、私と委員会が同じ先輩に惹かれた。

彼は、私と同じ委員会に所属していたが全く話したことはなかった。だが一時本屋に行ったことがきっかけで先輩を知るようになった。

彼の名前は、”大石 優輝”君だ。

大石先輩は物静かで頭のいいと言うことくらいしか知らなかった。だがその本屋での出来事がきっかけでよく知るようになる。私も彼も他の人の言うイメージを信じていた。というかそれ以外に知る機会はなかったのだ。

彼が言うには、私は”優等生”ではなくただの”変”な奴らしい。だが私も先輩の”物静か”も”頭良い”もあっていないと思った。私たちはなかったと思っていた共通点があった。それは”思考回路”と”お笑い”だった。考え方こそ違うものの、私たち二人はどんな話題でも話すことが出来た。お笑いに関しては、私は落語、先輩は漫才、と違うジャンルでもお笑い好きと言うのも共通点に入れることが出来た。


だが学校では、なかなか話さなかった。私たちはいつも本屋を待ち合わせにして、近くの喫茶店で語り合っていた。学校で話さなかった理由の一つは、私は友達がいてなかなか別行動をする機会がなかったから。先輩の場合、先生からの頼まれごとをよく引き受けてしまう為、なかなか空き時間がないことだ。もう一つ大きな問題となったのは、学年が違うと言うこともあり、校舎の移動が面倒くさかった。その為みんなに知られないであろう、不思議な関係性が保てた。


ある日のこと、先輩が二年生の校舎にいるのを見かけた。珍しいことなので声をかけようと思ったが、辞めた。

その理由は私の友達が話しかけていて、しかもそれが、ように言う、

”告白”だったから。


先輩は元々顔の整った、一般によく言う”イケメン”だったのだ。それに今まで気づかなかったのも、それは先輩の容姿に全くの興味がなかったから。だがこのことをきっかけに、なかなか自分の内を先輩に話すのが困難になって来た。それはきっと私が自分の気持ちが何なのかわかって来ていたからだと思う。それからというもの、いつも通り学校の外で会っていた。


一度、私は先輩に質問をしたことがあった。好きな人がいるのか?と。

先輩は「いるよ」と言っていた。その時私は、好奇心で聞いてしまった。聞いてはいけなかった。


それは誰か?


先輩は困った顔をして、言った。

幼馴染で、交通事故で亡くなった、と。


一瞬気まずい雰囲気にはなったものの、先輩が話題を変えたことで何もなかったかのように思えたが、私はどうしようもなく凹んでいた。

それはなぜか?やっとここで確信を得られた。


私は先輩に恋しているのだ。


と。でも思った、好きだと気づいた瞬間に失恋してしまったのだということに。

帰って私は泣いた。慰めてくれる人もいなく、引きこもりの弟しかいないこの家で。5日後、私は好きなように自分の気持ちに解釈をつけた。

片思いだけで済んでよかった。

家のようにいつしか崩れる現実を見なくて済んだ。

と。


5日後、学校に戻った。

友達に心配された。風邪だったと言ったが、一人、私の親友で幼馴染の典子はわかっていたようにも思えた。彼女は先日先輩に告白した張本人だ。でも私は気にはしていなかった。最も気になっていたのは、その返事だった。だが、数日前の先輩の回答からは可能性は全くなかった。


告白こそすればよかったものの、諦めた。

今となっては、そんなことはどうでもいいけどね。

さて、ここはどこだろうか。

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