第3話 散らせ大切な日はない

「夏は短いよね」



 夏はあっという間に過ぎる。まだまだ序の口だというのに、もう終わって欲しい。暑くて暑くて、どうしようもない。一人でいるとどうしようもなくどうしようもない。


 テレビで流れるのは暑さへの注意喚起。高齢者がクーラーをつけないという。孤立、孤独。注意とは周りとは、暑さとは短さとは、一日とは一人とは、こんなことを考えている自分とは、いったい何なのか。言葉の意味すらどうしようもなくどうでもいい。


 僕にはまだ大切な人がいる。

 僕にはまだ大切な日がある。


 例えばいつかひとりぼっちになっても。大切な人と大切な日を思い出して生きていきたい。


 暑いなあ。

 こんな暑い日は大切じゃない。

 きっといい思い出もできない。

 恋するあの子にだって会えない。

 会えても僕は汗臭い。

 むしろ会いたくない。

 いや、嘘だ。会えるのなら会いたい。


 白くて細い足がユラユラするスカートから伸びている。陽炎は今日も変わらずアスファルトの上でユラユラしているのに。僕をユラユラさせるあの子。


 一人でいたって暑いけど、

 みんなでいたらもっと暑い。だけどやっぱり寂しくて。寂しいと余計に頭が回らない。


 頭の中の言葉や単語が散っていく。みんなそれぞれに意味や、てにをはとお別れをしている。一人になっちゃダメだよ。クーラークーラーしちゃうから。孤独死ちゃうから。間違いなのか遊んでるのかすらどうでもいい。


 僕はまだ一日を無駄に過ごせる。

 僕はまだ一日を有意義に過ごせる。

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