誰にも気づかれない魔王城建築

ちびまるフォイ

完成・魔王キングダム

「えーみなさん、今日は魔王城建設にお集まりいただきありがとうございます」


周りが海に囲まれた更地に呼び出されたのは、

魔物の中でも腕利きの大工オールスターズだった。


「事前に話があったように、ここから魔王城を建設します。

 わかっていると思いますが、この近くには血に飢えた冒険者たちがウヨウヨしています」


「こ、殺されないようにしなきゃな……」


「ちがいます。そいつらに建設中の魔王城に気づかれないようにしてください。

 最悪、あなた方が死んでもなんとかなります。

 ここに魔王がいるとバレたら、世界征服は確実に失敗しますから」


魔物たちは最新鋭の道具を与えられたが困惑しっぱなしだった。


「でもよぅ、さすがに建設中にずっと隠し通すのは無理なんじゃないか?

 大きな建物ができるとわかれば、冒険者へ遠目に気づかれるだろう」


「そこはご心配なく。魔法使いを動員しました」


指パッチンで集まった魔法使いたちは、杖を振ると近くの木を透明化させた。


「ご覧のように、魔法使いたちの魔法で建設中の魔王城は透明化できます。

 MP切れると解除されるので、夜中やシフト制でMPを節約していきます。


 ではみなさん、冒険者たちに感づかれる前に、急ぎつつも欠陥なく、設計図通りに作ってください!」


「「 おお!! 」」


魔物大工たちは大仕事に関われる興奮を胸に作業をはじめた。


作業開始から数日。


魔物たちの中でも「さすがに無理だ」と意見が出始めた。


「あの、側近様よぉ」


「なんですか? 昼休憩はまだ先ですよ?」


「この設計図通りに、この魔物数で、この期間で作るのは無理だ。

 せめて、地下迷宮やトラップを簡単にしてくれないと、とても間に合わない」


「なに言ってるんですか。そうして魔王城にきた冒険者を弱らせなくては

 魔王様にベストコンディションで到着されてしまうでしょう」


「しかし……」


「つべこべ言わずに手を動かしてください」


魔物の提案はしりぞけられた。

作業が進むにつれて魔物たちは疲弊し、透明化のシフトも小刻みに解除されるようになった。


「最近、透明化されなくなったなぁ」


「魔法使い側でも脱走した奴らがいるみたいだぜ。

 それで少ない人数で、こんなバカでかいものを透明化させるっていうんだから

 魔力の消費もハンパじゃないだろうな」


「そうかぁ」


昼休憩をしていた魔物の近くに足音が聞こえた。

完全に油断していた2匹は冒険者に気づかなかった。


「おい、魔物ども」


「ひい! 冒険者だ!」


「お前ら、あんなバカでかい建物作ってるけど、あれなんなんだ?」


2匹の魔物たちは背中に氷を入れられたかのような悪寒が駆け巡った。

「fin」と「The End」の文字が頭の中で乱反射する。


(どうするんだよ……)

(魔王城です、なんて言えるわけないだろ……)


「なにボソボソ言ってるんだよ。処すぞ」


「ひええええ!」


魔物たちの顔に脂汗がにじみでる。

どうしてこのタイミングで透明化されていなかったのだろうか。


「あ、あれは……」


「あれは?」



「で……電波塔です……」



「え」


「そう! 電波塔なんです! 大きいでしょう!?

 最近、魔物も人間もお互いにコミュニケーション測れるように

 なにかこう、電波的なものを介してやりとりできればと思いまして!!」


「へぇ、すごいな!!」


バカでよかったーー!!

と、魔物たちは心の中でガッツポーズをとる。


「それじゃ、俺たちは作業に戻りますので」

「まだまだアンテナの調整が必要で、ハハハ……」


「ああ、頑張れよ」


振り返ったそのタイミングで、魔王城が透明になった。

このタイミングでまさかの透明化シフトになった。


「おい、透明になったぞ。どうなってるんだ?

 電波塔が透明になるなんて、おかしいぞ。そんな機能いらないだろ」


「いや、これは……」


「怪しいな、何か隠してないか?」


「それは……その……」


冒険者は刀に手をかけた。魔物は今までの思い出が走馬灯になってかけめぐる。



「けっ、景観を損ねないためです!!」



「……は?」


「ほら、この近くって海が多いでしょう? いい眺めじゃないですか。

 そこにバカでかい電波塔立てたら景観を損ねちゃうから

 透明にしようってことになったんです! ね!? ね!? ねーー!?」


「ほほぅ、なるほどなぁ。魔物も気をつかうじゃないか」


「これからの時代、人間との共存がうちのモットーなので!」


と、世界征服の拠点を組み立てている魔物が笑顔で言った。

冒険者は納得したようでそのまま立ち去ると、魔物たちは腰が抜けた。


「あ、危なかった……いろんな意味で……」


「俺わかったよ。魔王城を組み立てる前に必要なものがあったんだ」


「なんだよ?」


「先に俺たちで透明化装置を作るんだよ!」


魔物たちはいったん作業を中止して、透明化装置の作成に全力を投じた。

完成した透明化装置を魔王城に取り付けると、魔王城は透明になった。


これには毒舌で評判の側近様もご満悦。


「ほほぉ、城を作らずに何をしているかと思えば、こんなものを。すごいじゃないか」


「ええ、魔法使いだけに頼ってしまうのは危険だと思ったので。

 これなら24時間365日、常に魔王城を透明にできるから、我々も作業に集中できます」


「それに、完成した後も透明化させておけば、冒険者どもの襲来も防げるな。

 夏休み期間に魔王城に来られても、魔物がいないから突破が楽になるし」


魔王城に透明化装置を取り付けたことで作業速度はぐんと上がった。

魔法使いのMP回復待ちがなくなったので、作業に集中できる。


外からは消して見えないが、魔王城は魔物たちの手により、ついに完成した。


「やったー! 魔王城が完成したぞ!!」


「みなさん、お疲れさまでした。

 これからそれぞれの日常に戻ることかと思いますが、

 魔王様がこの魔王城にいることだけはけして他言しないように」


魔物たちは給料分のどんぐりをもらうと、それぞれの家路についた。

魔王は完成した魔王城に満足していた。


「ククク、人間どもめ。この場所にこんな要塞ができていて、

 しかもその最上階に我がいることなど知らぬだろうな。フハハハハハ!」


魔王様は玉座に座ると、誰にもバレないように魔王城の透明化をした。






翌日。


「おい、なんか魔王浮いてるぞ」


どこかの冒険者が高い空に浮かんでいるように見える魔王を見つけた。

投石器を持ち出し、最上階にいる魔王をピンポイントで撃破すると、世界に平穏が訪れた。



透明な魔王城の存在に気づいたものは、誰もいなかった。

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