夏の夜に

ともかず

夏の夜

何千回、何百回もの夜を迎えて、やっと出会えた人でした。


真っ暗なキャンパスに色とりどりの火花が散る夜。人混みから少しだけ離れた神社の階段で。

鳥居の見下ろす中で私は、私の中にある確かなものが疼くのを感じて、心臓がはちきれそうなくらいどきどきしました。


首筋から、そろりと雫が足を滑らせる。


私はこっそり息が上がっていくのを悟られないよう必死でした。


どん、どんと、まるで心臓の音に被せるように打ち上がる花火。


彼女が何の気なしに目を合わせようとしてくるものだから、私はその度、すっと顔を背けてしまう。


「どうしたの?」


なんてたずねられてしまえば、ひとりだけ緊張している自分が恥ずかしくなる。恥ずかしくって、悲しくなる。


「あなたはどうして、今日この花火大会に、誘ってくれたんですか。」


うまく舌がまわらず、ひとつひとつを確かめるように、ゆっくりと彼女に問いました。


すると彼女はきょとんとして、当たり前のように言いました。


「だって、友だちだから。わたしにとってあなたは、初めてできた女の子の友だちなの。」


はにかむ彼女に言葉が詰まりました。


彼女は恥ずかしい様子で、頬をりんご飴のように染めました。

私は、またいっそう悲しくなりました。


友だち。


当たり前に紡がれたその言葉に、私はきっと、永遠に囚われるでしょう。


あなたは何も知らないのですね。


私がどんな目であなたを見ているのかも、

どんな気持ちであなたと過ごしていたのかも、

どんな手であなたの髪を撫でていたのかも。


あなたがたちを知ってしまえば、私はどんなに楽でしょう。


気味が悪いと突き放ってくだされば、喜んで私はあなたの前から姿を消して、遠い遠い海の果てで、あなたを想って暮らすのに。


もしもあなたが刃物を突きたてれば、私はそこから動かず、あなたに殺されるのをただじっと待つのに。


なのに。


ずっと隣で笑っていてくれるから、もしかしたら、と思ってしまう。


明日あなたと一緒にいられることを当然のように思ってしまう。


そんなはずないのに。そんなはずないのに。


嗚呼、あなたはどこまで罪深いのでしょう。


花火がひとつ散って、辺りに煙の香りが漂う。


鼻の奥がつんとして、しみるように痛くって、あなたにもらったりんご飴を握りしめました。


突然うずくまる私に、あなたはぎょっと驚いて。

その様子がおかしくって、私の心もおかしくって。


二人でくすくすと笑った後に、人目も気にせず笑い合いました。


嗚呼、今宵も星が綺麗ですね。

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