最終話・初弾、決断。

危なかった。

サナさんの所持金、ぎりぎり2万円。

わたしはありがたく拝借する。


「金をよこせ」

「銃が先です」

「よし、じゃあ同時だ」


悪魔がジャジャツ、とリボルバーをアスファルトに滑らせるのと同時にカードを配る要領で一万円札2枚を悪魔に投げた。


わたしは銃を拾い上げる。


「結構重いんですね」

「ああ。女の手に余るだろう」

「そうでもないですよ。しっくりきます。よ、っと」

「おいおい。何してんだ」

「別に。今後の安全を打算してるんです」

「なんだ。俺はもう帰るぞ」

「帰れませんよ」


わたしはさっき悪魔がやったように、右手を上げて彼に照準を定める。違うのは左手を添えてることだ。


「おい。まさか、撃つ気か」

「どっちがいいですかね」

「拳銃で悪魔が殺せると思うか」

「別に死ななくてもいいんですよ。当分の間黙らせる程度で」

「お、お前、人を殴ったことあるのか?」

「一度もないですよ」

「そんな奴が銃なんか撃てる訳ないだろ」

「人なら躊躇しますけど、あなたは悪魔ですから」


悪魔の背後から朝日が登り始めた。

逆光で彼のシルエットの黒がますます色濃くなる。


「撃てる訳ない。やめとけ」

「あ。今の一言で決まりました」


パン!


間近で聞いてもやっぱり軽い音。

けれども反動はそれなりにあった。


「痛っ」


胸のど真ん中に被弾した悪魔よりも、自分の手首の痛みの方が気になった。

わたしって、実は冷酷なんだろうか。


「おおっ!」


着弾した胸の辺りから青い炎が吹き出している。悪魔は悶え苦しむ声をあげる。


「糞っ、糞っ、畜生が!」

「畜生はあなたですよ」

「助けてくれ」

「助け方がわかりません」


わたしがそう言うと悪魔はがくっと膝をついた。


「ああ、もう終わりだ」

「あなたの一生なんて始まってもいませんでしたよ」


悪魔はそのまま白い灰になった。


「レイナ、大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

「悪魔、死んじゃったのかな?」

「いえ。生きてるみたいですよ」


灰がさらさらと一筋の流れとなって空中を飛んでいく。しばらくすると見えなくなった。


「また来たらどうする?」

「うーん。それまでこの銃、持っておいた方がいいですかね?」

「いや。よく考えたら銃を持ってるなんてまずいでしょ。しかもそれを撃つなんてとんでもないでしょ」

「でも、もう撃っちゃいました」

「ああ。困ったねえ」

「せめて一言ぐらい褒めてくださいよ」

「ああ・・・そっか。うん。偉かった。立派だった。よくぞ悪魔を騙して銃を取り上げた。あれ? さっきの2万円は?」

「灰にして持ち逃げされましたね」

「いや、一応銃の代金だからね」

「この銃を転売しましょうか」

「できる訳ないでしょ? まさかレイナがこんなことができるなんて」

「神様のご加護でしょ」


わたしは不思議なくらいにすっきりした気分でいる。まあ、現実的な対応として一応警察に届けよう。どこまでを信じてもらえるかわからないけど、事実だもんね。


「あ。サナさん、子猫ですよ」

「ほんとだ」


夢で見た数十匹の猫の内の何匹かは子猫だったんだろう。


ちっこいのは、まあかわいいかな。



おしまい

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銃で悪夢を相殺するムーブメント naka-motoo @naka-motoo

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