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鞍馬 楽

第1話

 機械というものは、たまによく分からないことになる。

 まあそれは僕の知識不足とか、要領の悪さに原因があることが大半なのだけれど、今回のそれは、どんなに譲歩してもやっぱりよく分からない。というかすごくイライラする。


 僕はただ、ファイルを削除しようとしているだけなのであって、そんなに複雑なことをしているわけでは決してない。動画ファイル。MP4。あれMPGだっけ? まあいいや。そんなことはどうでもいい。

「あと残り5分」のところで、絶対に削除が止まってしまう。これはどういうことか。故障じゃないの? それとも不良品? くそう、あの家電量販店め。文句言いに行ってやる。いややっぱやめよう。争いごとは好きじゃないからね。


 それより、この往生際の悪い動画はいったいなんなんだ。何が映ってるんだ。えーっと……タイトルは……『茉莉まりと浜辺にて』? ああ、別れた彼女との思い出、ってやつだ。いいだろう、中身を確認してやるよ。そんなに削除がイヤならな。

 マウスカーソルを合わせて、ダブルクリック。ビューアーが立ち上がり、動画、再生開始。


 茉莉は楽しそうに笑っている。陽光を受けてキラキラと輝く砂浜。碧く透きとおった海。彼女と別れた今となっては、すべてが遠い遠い、手の届かない世界の出来事のようだ。

 動画は最後の五分間にさしかかった。動画の中のキモい声を発する男は、何を思ったのか「僕が明日死んだらどうする?」なんて恥ずかしい質問を茉莉に飛ばしていた。


「次の男探す」


 即答か。正直だな茉莉。そういうところも好きだったよ。


「だってさ、キミも、残されたあたしがいつまでもウジウジしてたら心配するでしょ? だから前を向く。振り返らずに、次に進むよ」


 ああ、そうか。

 きみはそういう性格だったね。

 それが、きみなりのけじめのつけ方。想っているが故の行動なんだ。

 どうだろう。きみは今、天国で、僕を心配してくれているのかな。


 動画が終わったので、僕は再び削除に挑戦してみた。

 すると、嘘のようにすんなり動画は削除されて、そのときようやく気がついたんだ。




 止まっていたのは、僕のほうなんだって。

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