そちらはどうですか

キミと初めて言葉を交わしたのは

まだ中学生だった頃のこと

どんな会話をしたのかなんて

きっと覚えてないんだろうな

実は私も思い出せないんだよ

もし覚えてたら教えてね

聞けば思い出すかもしれないし


子供だったころの私とキミは

お互いに憎まれ口ばかり叩いていたけど

普通にお喋りしたりもしてて

なんだか不思議な関係だったね

いつもケンカばかりしてるのに

困った時には助けてくれるキミの

意地悪なところがちょっとだけ嫌いで

優しいところがちょっとだけ好きだった

できればもう時効だよってことで

笑ってくれたら助かるんだけど


大人になってしまった私とキミは

それぞれの世界で生きているから

最近どう、なんて気軽に聞けないけど

キミが生きているって、私は知ってる

私が生きているって、キミは知ってる

それはとても幸せなことなんだと思う

二人の間にあった思い出の欠片を

キミも持っていてくれたことが

私は本当に嬉しかったんだ


ねぇ、私を友達だと言ってくれたキミ

一緒に過ごした時代が終わるんだってよ

新しい時代は喜ばしいことなのだろうけど

なんとなく寂しい気がしてしまうから

私は手放す予定のない思い出の欠片を

ただ空にかざして眺めているのだけれど


――そちらは、どうですか?


(初出:2019/4/30)

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