第2話

僕は水溜りに映る自分を見た。そこに写るのは中性的な顔で白く美しい肌を持ち髪は金色のショートヘアに黒のスーツを着た美丈夫と言ったいでたちだった。

「昔を懐かしんでるのかい?」

 僕の耳元にトルティージャが優しく語りかける。彼は今回の任務のために立ち会ってくれることになった相棒だ。彼はいつもは猫の姿でいるが、本来の彼は相棒の好きな武器や装備に変化できる万能兵器。初期型にウフコック・テンペリーノというネズミ型の万能兵器を元にさらなる改良を加えたモデルだという。

 なぜ、猫の形なのかと聞くと、昔のアメリカアニメのキャラクタに擬えて決まったのだという。彼は捜査に関していろいろとアドバイスしてくれたし、危機にも鋭く反応してくれた。だが通常だと彼は猫のように気まぐれで寝てばかりいるかと思えば、僕の辛い過去などを的確にアドバイスしたりとシーソーや天秤のように感情や思考が揺れ動いていた。

 今回の彼は前者に傾いたようで僕に気を使っていた。

「まさか、自分の顔を改めてみただけだよ。」

「自分は他の人間より醜く思う?」

「僕はそう思っていたけど、周りはそうは思わないみたい。」

「そうじゃなきゃ、彼らも君を国一つ買える値段で買ったりしないよ。」

 僕は互いにそのような会話をしながら街の中を歩いていき、目的の場所にたどり着く。その建物は大理石でできているかのように白く輝いていた。それはただでさえ廃だめでできたような建物がごみ箱に見えるほどの対比であった。

 この建物は表向きの顔として高級クラブというネットワークでの看板を市に登録している。だが実態は僕を買った売春組織の中枢にして、この街の売春の七割を占める組織の大本であった。僕とトルティージャは地道に組織の枝をハサミで切り刻み、生き残った組織の人間をあるものは優しく保護し、あるものは古代の拷問をほうふつとさせる痛めつけをして、相手の泣きべそを見ながら、命乞いのこもった真実と虚像の情報を耳にして、ついにここまで来たのだ。

 僕は体内の心拍数を抑えるために血液に心音を抑える溶液を混ぜ込み、大きく揺れる針を押さえつける。もう、後戻りはできない。目の前にある高級木材でできた扉に手尾を伸ばした。

「いいかい、入るよ?」

 僕は小さく頷きドアノブを回した。僕の目の前に写るのは登録していたクラブとは似ても似つかない光景であった。そこには僕が今まで相手にしてきた。欲望の獣が翼でほころんだ顔をして相手の人間と笑みを作りながら、部屋の奥に消えていく。

 僕はさっき食べた栄養食品の逆流する感覚を覚えてしまった。

「すみません、お客さま。ご予約はお受けたまりましたでしょうか。」

 美しい美形の女性達が僕を誘惑するかのように高級ホテルクラスのおもてなしの質問をする。

「ええ、ここのオーナーと待ち合わせをしていてね。」

「それでは、招待状をお見せください。」

 女性の質問に僕はその招待状を変形させて取り出した。それは旧初期ヘックラー&コッホMP5の形をしたPDWであった。それを見た店の人物は一瞬思考が停止をして、そのまま動かなくなってしまう。僕は迷わず引き金を引いてその人物の頭部をライフル弾の形をした拳銃弾サイズの弾丸を放った。銃弾は額を貫き頭蓋骨から脳幹を破壊してそのまま後頭部から飛び出し壁に着弾した。

 その瞬間、周りにいた金持ちの客やそれを接待した娼婦、男婦に至るまで金切り声と足音を上げながら僕の見えないところへ向けて駆け込んでいく。

「君は人間の感情や迷いは一切ないんだね。」

 トルティージャの冷静かつ気を使ったな言葉が僕の耳元に響く。僕自身引き金を引く際迷いなど振り払ったつもりはなかった。ただ引き金を引く際は感情を無にしてただ、世界を僕達三人にしてそのうちの一人をこの場から消し去っただけであった。

「今は迷いを気にしていたら命取りになるよ。」

 僕はそういうとトルティージャは次の言葉を投げかけた

「このままだと、大勢の敵が来るよ。」

「そうだね、このままじゃ戦いずらいよ。服を動きやすいものしてもらえる?」

「わかった、イーター。」

 そういってトルティージャは僕の来ている服を黒のビジネススーツから防弾仕様のコンバットスーツに切り替えた。このスーツは僕はあまり好きではなかった。首から下は完全に覆われているのだが、体の起伏が妙に浮き出ている。そのため僕が客以外に見せたくなかった、胸と股間の膨らみが妙に強調されている。

「もう少し、マシの格好はなかったの。」

「ごめん、前の相棒がこれがお気に入りだったから……。」

 トルティージャは謝りつつもこの服装を変えることはなかった。押しは強くはないが、彼なりの考えもあって、そのままにすることが多かった。

「あとどのくらいでやってくる?」

「あと三〇秒位だね。」

 トルティージャは猫のような気まぐれを見せず、冷静なオペレーターでナビをした。すると筋肉が昔のだるまのように膨らんだ体で僕に電磁型メリケンサックを振り下ろした。僕は相手のこぶしを流し、そのまま後ろ手にして相手の肩を外して、そのまま向こうに押し倒した。僕更に後ろから僕にめがけて大型のナイフを取り出した。そして鋭い目つきで刃を突き立てようとした。僕は冷静にかわして腕をつかみ、トルクレンチの法則だナイフを奪うと相手の顔をめがけて、大きく振りおらした。幸い頭の中枢には刺さらなかったようだが、顔に走る激痛に苦しみもがき泣きじゃくる。最後の一人はかなわないと感じたらしく応援を向かわせようとした僕は後方から右腕で首を巻きつかせまんりきの要領で首を絞めてそのまま、失神させた。

「うまく、人を無力化できたね。」

「君が、今までフォローしてくれたからだよ。」

 トルティージャの褒めの言葉に僕はなんだかうれしくなった。余裕がなかったため、過剰防衛とも取れる行動を何度もやってきた。そのトルティージャは僕を叱った。「何でもかんでも命を奪ったりしちゃだめだ」と。そしてそのたびに、強弱の使い方や命の意味などを教えたりもされた。今では僕も何とか加減ができるようになったということなのだろう。


「イーター、前方にこの店の護衛がやってきたよ。」

 僕はすぐに反応して銃口を向けた。女性とも男性ともつかな中性的な顔と体型をしたある人から見れば幻想的かつ理想的な人間たちが華麗な服とこの街の法執行機関すら、配備がままならない新型自動小銃を抱えて僕にその方向を向けてきた。

「トルティージャ、悪いけど加減はできないよ。」

 先に僕は彼に謝った。

「いいよ、この場合下手な加減は命取りだから。」

 僕は持っていた銃を構えたまま建物の陰に隠れるのであった。



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