最終話

 たっちゃんが倒れてから、もう半年たった。倒れた直後近くの病院に搬送されたが、原因はわからないそうだ。健康状態に問題はないらしがずっと眠り続けている。


 コンクールの日以来、私はピアノに触っていない。いや、触れないと言うほうが正しいのかもしれない。私のピアノのせいでたっちゃんが昏睡状態になってしまったのではないかと不安で仕方ない。私を責める人はいなかったが、私のもとに慰めに来る人は大概「運命だったんだよ」という。

 

 私は、今日もたっちゃんのお見舞いに行く。私はコンクールでたっちゃんが倒れた日から毎日病院に通ている。病院の看護師さんたちとも仲良くなったりして時々お菓子などの差し入れをもらったりすることがある。

 

 今日の朝、私はたっちゃんの夢を見た。私とたっちゃんが初めてピアノに出会ったあの日の夢だ。だから、今日は小学校の時にもらった楽譜をもって来た。ピアノは病院の交流ひろばに置いてあったのでそれを借りようと思う。

 

 私は半年ぶりにピアノを弾こうと思う。今日ピアノを弾けば何か変わるはずだ。看護師さんにお願いしてたっちゃんを車いすに座らせて、交流ひろばまで移動する。


 私はピアノの鍵盤に指を乗せた。久しぶりの感覚だ。だが、この曲は小学生のころに死ぬほど練習したのだ。まだ弾けるはずだ。私は意を決してピアノを弾き始めた。


 私のピアノの音を耳にしたのかどんどんと人が増えていく。おじいちゃんや小さな女の子まで。だが、私はそんなことは気に留めずひたすらピアノを弾き続けた。たっちゃんに届くように。


 私は、そっと最後の音の鍵盤を押す。そして、音がなくなり一瞬の静寂の中私は一転を見つめる。








 そこには、涙を流して笑顔で私を見ているたっちゃんがいた。





 わたしはすぐさま椅子から立ち上がりたっちゃんのもとへ向かい抱きしめる。


「お帰りなさい。ずっと待ってたんだよ」


「ただいま。やっぱり利佳のピアノは僕の運命の音だったんだね」



―完―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋の音色 蔦屋坊 @kotatsu25

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ