会場での喝采──そして受け継がれてゆく技術のバトン

南雲千歳(なぐも ちとせ)と申します。
僭越ながら、レビューを書かせて頂きます。

この作品は、師を失いながらも成功したピアニストの話です。

かなり以前の漫画やアニメ作品などでは、こうした世代間での師弟愛が良く描かれた様に思います。

多くの場合、師は弟子よりも世代が上ですから、弟子に奥義の様な技を伝授し終えると、役目を終えた師は、大抵、何かの理由で死んで仕舞います。
著名な作品ですと、『ドラゴンボール』の亀仙人などでしょうか。
『るろうに剣心』の比古清十郎などは、その例外パターンと言えます。

さて、師が弟子に技術を伝える……それは世代交代の様相であり、異なる遺伝子を持つ個体間で渡される技術のバトンタッチです。
渡される物は、多くは一子相伝の技であったり、場合によっては単なる技術に留まらず、弟子のその後の行動原理を構成する思想・哲学(考え方)であったりします。
この辺りは、ゲームの『メタルギアソリッド』シリーズなどでテーマとされている所です。

この作品では、まさに、そんなピアニスト間での世代交代の完了したシーンが描かれており、拍手に沸く会場の派手さの裏で、師と弟子との滋味溢れる関係性が描かれています。

世代交代は終わりであると同時に、始まりでもあります。
この作品は、そんな深いテーマ性を持った作品でした。

作者の早瀬翠風さんの次回作に、大いに期待しております。

※個人的な感想としては、惜しむらくは師の性格や性別などの人物像が具体的で無いと言う点が気になる所でした。

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