海外カクヨムからの輸入作品

ちびまるフォイ

あなたの国でのグローバルスタンダード

『カクヨム翻訳最高決定機関会議室』


すさまじく強そうな名前の部屋に入るとスーツの男が座っていた。


「いやぁ、わざわざお越しいただいてありがとうございます。

 メールは確認してもらえました?」


「はい、私の小説をカクヨムに翻訳して出したいと」


「そうなんです。どうにも国内ではネタが尽き――ではなく、

 海外の新しい風をぜひうちのサイトにも入れたいと思いましてね」


「私としては構いませんけど、翻訳は誰がやるんです?」


「それはもう安心してください」


男が指パッチンすると、部屋の中にバカでかいスーパーコンピューターが運ばれてきた。


「うちの自慢のスーパーコンピューターです。これを使います」


「すごいですね。これならちゃんと翻訳してくれそうです。

 どうやって起動させるんですか?」


「この投入口に小説を入れると、

 スーパーコンピューターの中にいるおじさんが必死こいて翻訳したものが出てきます」


「手作業かよ!!」


「安心してください。中のおじさんは海外の重役の翻訳としても仕事経験があり、

 少しSMクラブに出入りしがちな今をときめく翻訳家ですから」


「……念のため、掲載前には翻訳していいですか?」

「それはもちろん」


試しに小説を入れてみると日本語に翻訳されたものが出てきた

最初に感じていた不安も気にならなくなるほど丁寧な翻訳だった。


「いかがですか?」


「これなら大丈夫ですね。ここまで精度が高いとは思ってませんでした」


「人は見た目じゃないんですよ」


かくして、日本のカクヨムに海外の小説が翻訳されて3作が掲載された。

初めての試みとあって盛大に宣伝されたが、喜ぶどころか怒って戻ってきた。


「ちょっと! どうなっているんですか!!」


「作者さん、どうか落ち着いてください。いったい何が不満だったんですか?

 誤植もなければ、翻訳ミスもない。何が不満なんですか」


「タイトルですよ!!」


「タイトル?」


「私の書いた、自由奔放で荒っぽくてたくましい

 ランボーのような男が大活躍する医者のヒューマンドラマの小説ありますよね!」


「『WILD DOCTORS』ですね」


「それがどうして 『おじさんの診療所』 ってタイトルになるんですか!!

 これじゃ全然荒っぽくないですよ!! 縁側でお茶すすってますよ!!」


「え? でも主人公はおじさんでしょ?」


「全体のバランス考えてくださいよ! 邦題誰が考えたんですか!!」

「僕です」


「お ま え か よ」


今にも殴りかかる5秒前だったが、殴る体力よりも追及する方へ体力を割くことにした。


「それに、ほかのタイトルもひどいもんですよ」


「そうですか? 他のは会心の出来だったんですけどねぇ」


「地中の中でしか生活できない男と、空にしか生きられない女の子との

 ハートフルな恋愛小説ありますよね」


「『Ground Love's SKY』 ですね」


「それがどうして 『恋する私の電車通学』 になるんですか!!」


思わず机をバンバンと叩いた。


「どこから電車出てきたんですか!? それに主人公は男ですよ!

 恋してんのは男ですから!! しかも通学って……メインは学校じゃないですよ!!」


「いや、登場人物が10代だと学校は切り離せないじゃないですか」

「知らんがな!!」


「一応、女の子側も恋してますし」

「結果論でしょ!?」


「それに、もう出しちゃってるんですししょうがないじゃないですか。

 今からタイトル変えたらそれこそ読者が迷いますよ」


「こちとら、不満はまだあるんですからね……」


「ええ? もうタイトルくらいいいじゃないですか」


男は疲れてきたように顔を振った。


「世界終焉の使者となった主人公が、何度も死ぬ方法を探す小説ありましたよね」


「『Ragnarok never die』 ですね」


「あんた、なんてタイトルにしました?」


「 『運命の自転車』 」


「もう意味わかんないし!! 自転車とか出てきてないし!!

 このタイトル見て、本来の内容が予想できる人なんていませんよ!!」


「自転車って自分でこぐじゃないですか。

 自分でこうペダルを回して……運命を回し、あらがっていく的な」


「あんた絶望的にタイトルのセンスなさすぎるって!!」


作者はすべてを言い切ったようにその場で崩れ落ちた。

今度は男がぽつりぽつりと話し始める。


「しかし、仮に原題に沿ったものをつけて、成功するんでしょうか?」


「……え?」


「ジブリの『もののけ姫』だって最初は『アシタカせっき』というタイトルの予定みたいですよ。

 せっきと言われても、なんか土器作ってそうな作品になるじゃないですか

 タイトルを変えて成功してる例もあるんですよ」


「その映画は見たことありますけど……。中身がよかったからじゃないですか」


「ポスターだって、美人の女の子とバカでかいオオカミのを出すにはもののけ姫

 アシタカせっきだと、主人公の男のポスターになってましたよ。

 どっちがキャッチーなのかは明らかじゃないですか」


「ぐぬぬ……」


「タイトルはあくまでも入り口です。

 客寄せの部分なんですから、内容をうまく表現することよりも

 なにで人を集めるかというのが大事なんですって」


「それを踏まえても"運命の自転車"はクソダサいけどな」


作者ははぁとため息をついて、半ばあきらめるように顔をあげた。


「……まぁ、あなたの言いたいことはわかりました。

 でも、今後は掲載前にタイトルを見せてくださいね。

 お互いに話し合って相談したタイトルならもめませんし」


「ええ、わかりました。では今後は、海外から国内への翻訳掲載時にはそうしますね」


二人は固く握手をした。

男はそのあと、作者にお願いをした。


「それで、この件とは別に海外カクヨムでお願いがあるんですが……」




後日、海外カクヨムに掲載されたものを見て、今度は男が作者に直談判した。


「ちょっと!! どうなっているんですか!!

 僕の作品を海外に掲載してくださいと頼んだのに!!」


「いやいやいや、ちゃんと翻訳しましたよ!」


「問題はタイトルですよ!!」


男は自分の単行本を鼻先につきつけた。



『ある日地中からよみがえったヒロインが

 パンツで首つりしようとしてひきこもりになったので

 妹に偽装して動画配信者になって生活する1年間』



「なんでこれが『The Sister』になるんですかぁ!!

 純情な感情の1/3も伝えられてないじゃないですよーー!!」



「う、うちの国だと短いほうがウケるんですけどね……」



このあと、しこたま叱られた。

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