花が散るほど親しくないです


「なあ、クロエ。最近シーグローブ家の子息たちと仲良いみたいだな」


 ゲームで何度か似た言葉を聞いたそれは、今までの努力を泡のようの消す、ゲーム内で最も聞きたくない言葉。


 その言葉を聞いた私は、紅茶の入ったカップをみっともなく落とすのだった。



* * *



 それは創立記念パーティーから約1週間ほど経った、ある休日の昼下がり。

 私は王都に滞在している父と母にたまには帰って来なさいと半ば脅され、前日の講義終わりに急いで迎えの馬車に乗り込み王都の実家へ帰ってきた。


 と言うのに父と母はあろうことかちょっとデートしてくるわね。と娘を置いて出掛けてしまったのである。


「ねえ、レオナルド。お母様とお父様酷いと思わない?」


「連日デートだって王都を満喫してるから別に何とも」


「でも娘を脅して帰って来させたくせに普通出掛ける?」


「……まあ、仕方がないだろう」


 親に置いてきぼりにされた娘は中庭で自棄紅茶をする事にした。

 澄んだ青空の下、私の好みを把握した料理長直々のスコーンとクッキーを食べながら、これまた私の好みを把握したレオナルド直々の紅茶を飲み、レオナルドに愚痴をぶつける。


 ああ、なんて有意義な時間。


「全く。デートしかする事が無いなら早く領地に帰れば良いのに!」


「……おう。クロエ、なんだか荒れてるな」


 クッキーを1枚手にとり無造作に口に含む。

 そして流し込むように紅茶を飲んでいると、目の前に兄であるオリバーが現れた。


「お兄様。お久しぶりです」


「ああ久しぶり」


「今日お義姉様は?」


「……ふっふっふ! クロエ喜べ! お前は叔母になる!!」


「……………………叔母になると言われて喜ぶ女性がいると思っているお兄様の思考が怖いです。おめでとうございます。お兄様」


 たっぷりと間をあけた私は嫌みと祝いの言葉を口にする。

 私が叔母になると言うことはお義姉様が子を成したと言うことだ。素直に喜ばしいことである。これで兄も次期当主としての自覚を持ってくれると有難い。


「おう。有難うな! ところでクロエ」


「はい?」


「最近シーグローブ家の子息たちと仲良いみたいだな」


 そして冒頭に戻る。


「そ、れは」


 中庭の芝生の上に落ちたカップは幸い割れることは無かった。

 半分ほど残っていた紅茶が零れる。


「……ウッドマン家もうちより爵位が上だ。気を付けろよ」


 兄は私の髪をくしゃりと撫でるとレオナルドに「カップの始末宜しくな」と言って中庭から去っていく。私はそれを呆然と眺めながら、兄の言葉を反芻する。


 ウッドマン家セシルはシーグローブ家シリルとクリフォードより爵位が上だ。

 さらに言えばジャレッドの家はその両家より更に上。

 そしてアッカーソン家は1番下である。


 本来であれば1番下の爵位であるアッカーソン家はウッドマン家やシーグローブ家などと関わる事は有り得ない。階級が違い過ぎるのだから。


 でも、関わりを持った今、兄の言う通り気を付けなければ何処で何があるか分からない。


 それにしても、


 私はお助けキャラである兄に忠告を受けるほどセシルの好感度を上げた覚えないんですけど!!!!

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