未来の夫(予定)が探していました


 カイルという青年に直して貰ったドレスを汚さないようにしながら、私は中庭のベンチに戻ってきた。


 ちなみにブラッドフォードはあのままフケた。


 仮にも王子がパーティーをサボって良いのだろうか……


 そんな事を思いながら中庭のベンチの前でドレスの裾を払っていると「ああ、クロエ嬢。探したぞ」と声が聞こえる。


「クリフォード様?」


「もうすぐ最後の曲だから探してたんだ。従者に頼んで羽織るものを用意させたんだが」


 そう言葉を紡ぐクリフォードの手には確かに羽織りもの……前世で言うボレロのようなものがあり、クリフォードはそれを広げて私の背後に回る。


 と、頭上から息を飲む音が聞こえた。


「……不要だったようだ。クロエ嬢、最後の1曲、私と踊っては頂けませんか?」


 暗がりの中、それでもドレスがリメイクされている事に気が付いたクリフォードは、羽織りものを一緒にいた従者に渡し流れるようにその場に膝まずいた。


「……私で良ければ喜んで」


 差し出された手を取ると、クリフォードは慣れた手付きで私をホールまでエスコートしてくれる。

 スルリと腰に回された手にドキドキしながらホールに入ると、何だか凄く見られている気がした。



* * *



 曲が始まっても参加者からの視線は消えない。


 あまり得意ではないダンスの一挙手一投足を見られている緊張感から何度かクリフォードの足を踏みそうになる。


「落ち着いてクロエ嬢」


「すみません……。何だか皆さんに見られているようで緊張してしまって」


 その度に優雅に避けてくれるクリフォードに感謝していると、クリフォードがふふ。と笑った。


「クロエ嬢のドレスがあまりに素敵で似合っているから、みんな見ているんだよ」


「……え、」


「こんなに素敵なご令嬢と最後の1曲を踊れるんだ。俺は幸せだな」


 腰を抱かれダンスを踊っているのだがら至近距離にクリフォードの顔があるのは当たり前なのだが、そのクリフォードの黒い瞳の中に映る自分を見付けて一気に体温が上がる。


 優しく微笑むクリフォードの顔を見ることが出来ず、少し俯きながら「私も、クリフォード様と踊れて幸せです」と小さな声で呟いた。

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