正ヒロインは無条件で愛されるようです?
着いてこい。と仮面を外したブラッドフォードに言われ断れるほど私は強くなかった。
私は慌てて自身の仮面を取り、名乗られて初めて分かりましたの体を装いつつスカートの裾を持ち上げ、淑女の如く頭を下げる。
「お初にお目にかかります。エヴァン・アッカーソン子爵の娘、クロエ・アッカーソンと申します」
「頭をあげろ」
頭を下げたまま挨拶をすると、ブラッドフォードは感情のない声でそう言った。
「お前の名前なんてどうでも良い。早く来い」
頭を上げると、ブラッドフォードと目が合った。
ブラッドフォードの瞳は何の感情も宿しておらず、ただただ冷淡に私を見下ろしていた。
端正な顔立ち、甘い声、身分、そのすべてで女性を魅了し言い寄られてきたブラッドフォードは「女なんて全員同じ」だと言って誰にでもこのような態度を取っていた。ゲーム内のクロエはそんなブラッドフォードにめげることなく心を砕き、献身的に支え、ブラッドフォードの心を解きほぐしていく。
のだが、私はゲームプレイ中から見た目の格好良さこそ惹かれていたが、性格、といかルート内容があまり好きでは無かったのでぶっちゃけブラッドフォードとは出会うつもりすら無かった。
まあそんな態度、表に出せるはず無いので大人しくブラッドフォードの後をついていくことにする。
* * *
中庭の奥、ひっそりと隠れるように作られた通路。
左右にはびっしりとバラの花が咲き誇り、足元は飛び石が敷かれていた。
そこそこに手入れがされており、しかしオープンになり過ぎないよう絶妙な具合のその通路をブラッドフォードは黙々と進んでいく。
「……あの、何処に」
「黙って着いてこい」
ここを抜けると何処に行くのか、どうするつもりなのか、なにも分からないままブラッドフォードの背中を追い掛ける。
暫くすると突然目の前に小さな小屋があらわれた。
「おい、居るんだろ」
「……るせーな。ってブラッドじゃんか。どうした?」
ブラッドフォードは小屋の扉を叩きながら声を上げる。
と、小屋の扉がギギっと軋んだ音を立てながら開いた。扉の先に居たのは真っ赤に燃えるような赤い短髪と、限りなく白に近い灰色の瞳が印象的な1人の男性。
「こいつのドレス、背中が汚れててな。どうにかしろ」
後ろ手に指をさされた私は、今だ混乱する頭のまま小屋の中に居る男性へと視線を向ける。と、
「……っ! 見付けた! 俺の理想!!」
白に近い灰色の瞳を目一杯に開き、男性はブラッドフォードを押し退け私の手を掴んだ。
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