本命のお屋敷に行くのだからお洋服を新調します


 シリルからシーグローヴ家のお茶会に招待された私は、すぐにお母様に頼んでロアを呼び出した。


「シーグローヴと言うことは伯爵家ね。シリル様は三男よね。1度お見かけした事があるけど、金髪金目の男前だったわ」


「シーグローヴ家と言えばご当主も奥様もお綺麗だし、3人のご兄弟も1番下のご令嬢もみんな綺麗って有名なのよねー」


 そう。シーグローヴ伯爵家は家族みんな美男美女で王都では有名なのだ。

 「私」の最推しであり長男であるクリフォード様は青髪黒目、次男のルーク様は青髪金目、三男のシリル様と、そして1番下のご令嬢のエマ様は金髪金目。みな一様に整った顔をしており、前世のゲーム内でも脇キャラ人気を総なめしていた。


 だと言うのにシリル様以外攻略対象にはならなかった。


「お茶会であればあまり派手なドレスは良く無いわね。青と金……合わせるのが難しい色合いだわ。どうしましょう」


 布見本の青と金を交互に見比べながら頬に手を当てるノアを横目に、私は最推しに会う予定が早まったことに興奮しきっていた。


 何かしらやらかしそう。落ち着かなければ。と思えば思うほど、逆にソワソワする。


「……クロエ様」


「っ。何?」


 ずいっとテーブルに体を乗りだし、私の顔を覗き込むロア。

 暫くじっと私を見つめていたと思ったら、その綺麗な紫の瞳が細められ「本命はシリル様じゃないのね」と笑う。


「どう、して」


「そんなのお見通しに決まってるじゃない。私を誰だと思ってるの」


 そう面白そうに笑うロアは、「そう言う事なら、青メインで行きましょう」といろんなタイプの青生地をテーブルに並べだした。


 楽しそうに生地を選ぶロアの顔が、少しだけ、寂しそうに見えたのは気のせい、にして良いだろうか。


「……ロア」


「ん?」


 今度は私がテーブルに体を乗り出して、そっとロアの頬に触れる。

 私の伸ばされた腕が視界に入っていたのだろう。頬に触れられても驚きもせず、ロアはチラリと己に触れる私の手を見てから、その手を掴んで頬から離した。


「どうしたの? 何だか落ち込んでいる?」


「クロエ様についに本命が出来たのかって思ったら、ちょっと寂しくなっちゃって」


 小さい頃からずっと私のドレスを作ってくれているロア。

 紫の瞳が珍しくて、ロアが来るたびにロアの膝の上に乗ってその瞳を見つめていた。そんな私にロアはいつも優しく微笑みかけてくれた。


 たぶんロアは、私が考えるよりずっと、私を大事に思ってくれている。


 それは子爵家の娘だからとか、自分は雇われているからとか、そう言う損得勘定は無しで。


「……ねえ、ロア」



 私、これからもずっと貴方の作るドレスを着続けたいわ。

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