未来の義弟(予定)に助けられました


「シリル様っ!」


「オリヴィア・アトリー嬢、スカーレット・ブルーメンタール嬢。そろそろパーティーが始まるらしいですよ」


 オリヴィアの手を掴んだまま笑うシリルは、何をしているのか問い質すことなくパーティーの開始を2人に告げる。


 オリヴィアとスカーレット、特にオリヴィアは同爵位でありジャレットとセシルと懇意にしているシリルにこの状況を見られた事に相当焦ったのだろう。シリルへの挨拶もそこそこに慌ててホールへと消えて行った。


「さて、クロエ嬢。ご無事ですか?」


「……はい。有難うございます。シリル様」


 小さくお辞儀をしようとすると、シリルはそれを右手で制し


「クロエ嬢にお相手をお願いしようと探していたんです。ふふ。間に合って良かった」


「……わざわざ探して下さっていたのですか! 申し訳ありません」


 メインホールからはカドリールが聴こえて来て、ああ、舞踏会が始まったのだなと理解した。

 が、目の前にいるシリルはその場を動こうとはせず、私をじっと見つめたままだ。澄んだ金色の瞳に見つめられるのは恥ずかしいので、私の方からそっと視線を反らすと、ふふっと小さく笑い声がした。


「申し訳なありません。さて、カドリールもそろそろ終わりますし、私たちも踊りに行きましょうか」


「……はい」


 そっと伸ばされたシリルの手を取り、メインホールへと入る。



 セシルの家は、その昔、とある国で総督の任についていた功績を称えられ侯爵の爵位を与えられた。その為か、メインホールの創りは、全体的に中世ヨーロッパを模しているのだろうこのゲームの中でも少し趣が違う。インドとかそっちの感じが強い。


「色彩豊かなホールですね」


「セシルのメインの屋敷はもっと鮮やかですよ」


「そうなのですか」


「ええ。あの屋敷は、なんと言うか、少し疲れるんです」


「……まあ。シリル様ったら」


 「内緒ですよ」なんてウインクをするシリルは悪戯好きな少年のような印象だ。

 私は小さく笑いを溢す。


「そう言えば、」


「なんでしょう?」


「突然で申し訳ありませんが、もし良かったらうちのパーティーにも来て頂けませんか? あ、うちは今年は舞踏会では無く、昼間のお茶会だから気軽に来て頂ければ」


「…………シリル様のお屋敷に?」


「ええ。迷惑で無ければ、ですが」


「ダメですかね?」


 なんて小首を傾げられたら


「いいえ。喜んで」


 と答えるしか無いだろう。


 と言うか、シリルの屋敷に行けば最推しに会えるでは無いですか! 喜んで行きましょうとも!

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