舞踏会は一大イベントです


 モーガン先生とのダンスレッスンから2日後。


「さすがクロエちゃん! とっても似合っているわ」


 私はゴーストホワイトを基調とした落ち着いたドレスを身に纏い、お母様にべた褒めされていた。


 ロアが作ったこのドレスは、本日お呼ばれしているジャレットの髪の色に合わせてスカートの裏地に薄い緑の生地が使われている。スカートの揺れに合わせてチラ見えする程度の裏地の緑は、ただホストに媚びるだけでなく、しっかりと上品さを残している。

 髪は左右の耳前の一房を編み込みにし、後ろはハーフアップにしたので耳に裏地の緑に合わせ緑の宝石が揺れる長めのイヤリングを付けた。


「それに、レオナルドも似合っていますよ」


 エスコート役のレオナルドは黒のスーツを何とも居心地悪そうに着こなしていた。胸ポケットにはドレスの裏地と同じ色のハンカチーフ。

 黒い髪はすべて後ろに撫で付けている。


「クロエちゃん。フレッカー家の皆さまに宜しくお伝えくださいね」


「もちろんです。お母様」


 さあ、好感度を上げない勝負の始まりです!



* * *



「本日はお招き頂き有難うございます」


 公爵であるフレッカー家のゲストハウスは、我が家とは比べ物にならなかった。

 門構えから屋敷の入り口まで馬車。そして屋敷の入口前は中央に噴水を配置しロータリーのようになっている。


 門前で屋敷の人間に招待状を見せ、屋敷の入口でまた招待状を見せる。2段階構えなのは公爵という立場上、色々と面倒なご婦人を多く引き寄せるからだろう。


 屋敷の入口を潜るとそこはちょっとした溜まり場。

 メインホールへの入場前の、ウェルカムドリンクなどを受け取る場所なのだが、


「うちのメインホールより広い」


「流石は公爵家」


 あまりの広さに私もレオナルドも思わず呆然とした。


 ワァァア。


 と、辺りが騒がしくなる。

 何事かと首をキョロキョロと動かしていると


「クロエ嬢」


 目の前には落ち着いたモスグリーンのジャケットに白のズボンを合わせた格好のジャレットの姿。長めの前髪は左右に流し、灰色の瞳が良く見える。


「ジャレット様。本日はお招き頂き有難うございます」


 次男とは言えさすが公爵家であり、乙女ゲームの攻略対象。遠巻きに私たちを見るお嬢様がたの視線が痛い。そして怖い。

 その視線に気付かない振りをしながら、私はスカートを少し持ち上げお辞儀をする。ちなみにスカートを持ち上げると裏地の緑が絶妙な加減で見える。ロア凄い。


「……っ。こちらこそ、お越し頂き有難うございます。突然のご招待だったので、お断りさせるのではとヒヤヒヤでした」


 スカートの裏地の緑に気付いたのか、ジャレットは一瞬驚いた表情をした。が、すぐにふわりと綺麗に笑う。

 心なしか耳が赤いように感じるのは私の気のせいだろう。


 ……気のせいに決まってる。


「ジャレット様のご招待を断りなど考えてもおりませんでした。少し驚きはしましたけど」


「ああ。ですよね。申し訳ありません。どうしてもクロエ嬢をお呼びしたいと父にお願いをしたのです」


「……ご当主様にわざわざ?」


「ええ。お恥ずかしい」


 ほんのりと赤い頬を隠すように手で顔を覆うジャレットは、ゲームの立ち絵で良く見たやつだ。


 あ、これ、ヤバイ。


「でも、僕はどうしても貴方と踊りたかった」


 私の耳に口を寄せ、優しくそんな言葉を囁くジャレットに私は、思わず天を仰いだ。

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