第17話 ホーンテッドラビット

ジュエンクラーラの東門から出たシズ・ミラ・エマの三人は、東の森イーサノーズの手前までやってきた。


「さっき話した通りホーンラビットは魔獣。 つまり、人からすると危害が及ぶ可能性のある生き物だ。 でも、初心者でも狩れるような魔獣だから、そこまで手こずることはないからね」

「了解です。 でも初めて魔獣と戦うからちょっと緊張しちゃうな~。 だってここ……すごく暗いし……」


イーサノーズは初心者の狩り場としては有名だが、昼でもまるで夜のように暗いことでも有名だ。なので人種の冒険者が来ることは少なく、夜目が効く獣人種の冒険者が来ることが多い。

シズの住んでいるマイス村は比較的街灯も少なく、夜目は鍛えられているが、それでも不安になるほどだ。


「心配ないって~! 気配を察知したらすぐに知らせるからさっ!」

「う、うん」


そう言うと三人は、三人はイーサノーズの人で踏み固められた道を進んでいく。


ガザガザッ!


入ってすぐに、近くの茂みが異様に揺れる。小動物ではなさそうな茂みの動き方に、シズはすぐさま反応し、新品の剣を茂みに向ける。


「エマ、今のって―――」

「早速お出ましだね。 来るよっ!!」


バサッ!!


茂みから飛び出してきたのは、額と鼻から角の生えた白い兎だった。鼻の角の方が長く、額から生えている角が短い。だが、その鋭利な角は、一突きされれば人など簡単に串刺してしまうものだ。

ミラは監視役の役目がある為、シズに一声かけ姿をくらませる。


「これが……ホーンラビット! ―――めっちゃ可愛いじゃ~ん!!」

「でしょ」


そこに現れたホーンラビットは全長30cmほどのもので、角を除けばそこら辺にいる兎と大差ないほどだった。茂みが大きく揺れていたのは、角が高い枝に引っかかる為だ。


「えー、これを狩らないとだめなの?」

「仕方ないよ。 森から出て人を襲うこともあるからね」

「そうなのか。 ごめんねウサちゃん」

「名前付けんなよ……やりにくい」


可愛い兎に別れを告げ、剣を再度構えなおす。そして、一思いにホーンラビットに向け振り下ろす。


「ありゃ?」


ホーンラビットは身軽にその剣筋から避け、元の茂みの中に戻ってしまう。


「素振りごくろうさん! ―――ファイア!!」


外したシズをからかいながらも、魔法で炎の玉を茂みに向かい放つ。初級魔法とは思えないほどの威力で、森に新たな道ができるほどの傷跡を付けた。その焼き焦げた道には、黒い灰と共に角が1つ手前に転がっていた。


「まずは一匹目だね」

「魔法羨ましいな~」

「へへっ! シズも頑張って身に着けなっ!」

「スキルなんて身に着けれるもんじゃないじゃん! も~」


昨日の敵は何とやら。すっかり冗談も言えるようになった二人は、そのまま森の中を進んでいく。時々他の魔獣に出会うこともあったが、好戦的な魔獣は少なく隠れながら素通りしていった。

すると、三人は森の開けた場所ところに出る。そこは辺り一面岩が転がっており、踏みいることが困難な場所だった。

だが、シズが岩が特に密集している場所で何かを発見する。


「エマ! あそこにホーンラビットがいる!」

「えー、どこ? ……本当だ。 全然分からなかった」

「しかも3匹もいるじゃん! ラッキー」


シズとエマの二人は各々武器を取り出し、ホーンラビットがいる場所へ向かう。足を何度も滑らせながら気づかれないように目の前まで近づくと、ホーンラビットが3匹が岩を上手く使い角研ぎをしているところを目撃する。


「へぇ~。 魔獣も手入れとかするんだね」

「何呑気なこと言ってるの。 行くよ!」


エマの掛け声に合わせ、二人は一斉に飛び出す。この足場の悪い中では、流石のホーンラビットでも即座に動くことは困難だったらしく、一匹が足を滑らせる。


「せーいっ!!」


岩に剣をぶつけないようにホーンラビットを腹から一刀両断する。すると、そのホーンラビットのHPが全損したのか、長い角だけ残し黒い霧となった。

エマの方も難なく一匹を魔法で倒したようで、岩の表面が黒く焦げていた。だが、残りの一匹の姿が見当たらず、シズは見渡すがその姿は見当たらない。


「もう一匹は?!」

「ごめん。 森に逃げられた」

「そっか……。 しょうが―――」


バキバキ―――


その残りの一匹が逃げた森の方から木々が倒れる音がする。


「な、なに?」

「分からない。 でも嫌な気配だ……」


その音はどんどんシズとエマの方に近づいてくる。木々が倒れる度に、転がっている岩も唸りをあげる。すると、今まで隠れていたミラがいつの間にか後ろまで来ていた。


「シズお姉ちゃん。 これちょっとまずいよ。 ホーンラビットの上位種・・・・・・・・・・・だ!」

「上位……種!?」


ドゴォォォオオオン!!


目の前の木々が大きく飛ばされ、砂煙が舞う。目の前に現れたのは、黒と紫の毛並みをした如何にも禍々しい兎。大きさも普通のホーンラビットと比べ物にならないほどで、2mは軽くあった。


「で、でかぁ!」

「チッ。 ホーンテッドラビットか……。 シズ、ミラちゃん一旦逃げるよ!」


エマは呆気に取られ動けなくなっているシズの手首を握り、先行してくれる。ミラもその後ろから、ホーンテッドラビットを観察眼で確認しつつ付いてくる。


「あれは本当にまずい! 噂で聞いた話だと、今までに何十人もの駆け出しの冒険者を屠ってきた魔獣だ!!」

「ええぇぇぇぇえええ!! 私たちもその餌になっちゃうの!?」

「ならない為に全力で逃げるんだよ。 ……ってうわ! あいつまだ追いかけてきてるぞ!」


開けた場所を潜り抜け元来た道に入るが、ホーンテッドラビットは未だ木々をなぎ倒しつつ追いかけてくる。もはやホーンテッドラビットの角はランスとなり、太い木であっても根元から粉砕するレベルだ。

その粉砕された木々を見てシズは発狂する。


「むーりむりむり!! こわすぎるぅぅううう!!」


すると、後ろから付いてくるミラが、シズの服の裾を掴み目を指差しながら助言をする。


「よく見てみて!」

「?? ……あぁ! 観察眼か!」


そしてシズは観察眼を発動させ、追ってくるホーンテッドラビットのステータスを見る。魔獣のステータスを見るのは初めてだったが、人と同じように映し出されていた。


「えーっと……っ!!?」


エマに掴まれている手を無理やり振りほどくと、シズはホーンテッドラビットに向かい剣を構え始めた。


「シズ! 何やってるの?! 早く逃げないと」

「いや。 私ならもしかしたら勝てるかもしれない」

「それってどういう……」


ホーンテッドラビットは立ち止まっているシズに向かいながら、角を向け突っ込んでくる。


「来いっ!」


ドッ!!


ホーンテッドラビットの角がシズを完璧に捉えた。だが、シズは飛ばされるどころか一歩を動いていなかった。それどころかホーンテッドラビットの角を左手で掴んでいた。

自分の作戦が上手くいき、シズは自信に満ち溢れた顔をしていた。

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寝る子は超育つ!? ~睡眠学習で急成長生活~ 霜月 京 @ShimodukiMiyako

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